一六〇話


【ダストボックス】から出た俺たちは、その足で冒険者ギルドへと向かった。


「ユート、ミア、キーン、リズ……今度こそ、冒険者ギルド楽しみだなっ!」


「ああ」


「うんうんっ。どんなところかなあ?」


「美女がいっぱいだったらいいのう」


「あら、美女ならここにいるでしょ?」


「……ちょ、ちょっと棘はあるがの」


「何か言ったかしら?」


「ひいぃっ」


 キーンがリズに詰め寄られて笑い声が上がる。今日こそギルドにお目にかかれるってこともあってか、みんないつにも増して上機嫌だ。


「ユートさまぁ、なんか痩せましたぁ?」


「わ、そういえば、痩せてるー!」


「あ……少し緊張しちゃったせいかな?」


「「「「「珍しいっ!」」」」」


 ラビとモコに指摘されたことからもわかるように、今の俺は太った分身のほうではなく本物だった。


 今回は分身を使わず、自分の足で向かうことにしたんだ。『以心伝心』があるとはいっても、だからって『アバター』に任せっきりなのはなんか違う気がするからな。


 それと、分身に任せ始めてからというもの、何か胸にが出来たのがわかったんだ。身体的なものというより、精神的な違和感のようなもので、それが徐々に成長しているような感覚があった。


 もしかしたら例の不気味な声と関係があるんだろうか。でも、『アンサー』では自分の中に何もいないっていう回答だったし、もう解決したことだと思いたい。


 っと、そうこうしてるうちに目的地が見えてきたわけだが、どうも様子がおかしい。


 あれだけ賑やかだったエルの都が、この一帯だけは異常に過疎っていたからだ。


 人が少なかった最初の村の冒険者ギルドですら、周辺にはちらほら人がいたっていうのに、この辺はまるで避けられているかのように人が姿を消しているのだ。まさか、今日も休みとかじゃないだろうな。


「「「「「……」」」」」


 これには、それまで喋り合っていたファグたちもさすがにおかしいと感じたらしく、俺たちはこの上なく重い沈黙に包まれながらまもなくギルドへと到着しようとしていた。さあ、どうなることやら……。


 結論から言うと、ギルドは普通に開いていた。休みじゃなかったのか。


 だが、ギルドの中は外に負けず劣らず人がいなかった。なんだこりゃ。依頼の貼り紙も片手で数えるほどしかなく、端っこで憂鬱そうに飲むやつが2、3人いるだけで、受付嬢が退屈そうに煙草をふかしているといった有様だった。


 というか、定休日でもないのにここまで閑散としているという事実に、顔面を強く打たれるような衝撃を受ける。


「お、おい、受付嬢さん、こりゃ一体どういうことなんだ……?」


 リーダーのファグが面食らった様子でそう訊ねると、受付嬢が顔を向けることもなく、いかにも面倒くさそうに視線だけを寄越してきた。


「どういうことって、何言ってんだい。ここは冒険者ギルドだけど、それがどうかした?」


「い、いや、ギルドがこんなにガラガラだなんておかしいだろ。それも、人が多いエルの都で」


 ファグの言ってることはごもっともだが、受付嬢はいかにも気怠そうに煙を吐いてみせた。


「プハーッ……。おかしいのはあんたの頭だよ」


「げ、げほっ……! な、なんだと!?」


「おーおー、怖いねえ。いっそ勢いに任せて殴っておくれよ。そうすりゃ、こんなクソみたいな仕事、無理矢理辞められるんだからさ」


「こ、こいつ――!」


「――やめるんだ、ファグ。俺が代わりに話を聞くよ」


「お、おう、頼むぜ、ユート。こんなふざけたやつと話してたら本当に殴っちまいそうだ」


 なんとも投げやりな受付嬢だが、《ゴロツキ》のファグに怒鳴られても顔色一つ変えないことから相当に胆力がありそうだし、仕事を放棄せずにここに座っている以上完全に腐ってるわけでもなさそうだ。


「あんたに話がある」


「ん……? な、なんだい、あんた。聞きたいことがあるなら、早く終わらせておくれよ!」


 お、受付嬢が話をしてくれるらしい。これも《女殺し》の称号のおかげか。

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