一五九話
【隠蔽】状態のまま【ダストボックス】へ入ると、現在進行形で俺の『アバター』が食事をしているところだった。
その一方、ファグたちの前には空の食器が置いてあることから察するに、みんなで遅い朝食を取ったばかりの様子。もう昼に近い時間帯なわけだが、昨晩も《酒豪》のファグを中心に飲みまくってたみたいだから無理もないか。
それにしても、俺にはどうしても納得いかないことがある。なんで『アバター』だけ未だにモグモグ食べてるんだろう? 普通なら空の皿を突いてるはずだが。分身なだけあって食事するのが普通より遅いんだろうか?
疑問に思い、食事風景をしばらく眺めてみることに。すると、俺の分身はたちまちのうちに食べ終わってスプーンで皿をカチャカチャ突き始めた。あれ、このスピードなら遅れを取ることもないはずだが――
「――はぁーい、ユートさまぁ、おかわりでしゅよおぉっ」
「…………」
俺は思わず声が出そうになった。ニコニコ顔のラビが分身の皿におかずを追加してきたのだ。
なるほど……。彼女にとっては、俺の分身が皿を突くことがおかわりを催促してるように見えたんだな。それにしても、ラビが分身の食事姿を優しく見守る様子を見て、俺はなんとも複雑な気持ちになった。
一瞬とはいえ、俺は彼女を裏切ってしまうような選択をするところだったからだ。ということは、自分の心は今のところ彼女のほうに傾いてるんだろうか? 勝手に花嫁を自称されたとはいえ、俺自身満更でもなかったしな……って、また例の硬質な音が聞こえてきた。
「あうぅ、ユートさまぁ、大丈夫ですよぉ。もっとありますから、沢山食べてくだしゃいねぇ~」
「わふぅ、ご主人様って本当によく食べますねー!」
『アバター』が食べ終わって皿を突き、そのたびにラビやモコがおかずを追加するということの繰り返しだった。
「ユート、朝からすげえ食ってるな……」
「ユートの胃袋って、どれだけ大きいのお……!? 凄いけど、ずっと見てたら吐きそう……」
「この分だと、最早ユートの胃は底なし沼じゃろ……」
「っていうより、ユートの消化能力が物凄いんじゃない? それでも顔色一つ変えないし、この食べっぷりは信じられないけど……」
ファグたちが呆然とそのやり取りを見てることから、どうやら延々と続いてるっぽいな。分身もかなりデブってるように見えるし……。周りからはもう、追加されたおかずを食べ終わるたびに拍手が上がる始末。お、そこで《大食い》という称号を獲得した。
へえ、本体の俺じゃないのに分身がやったことでも称号を貰えるのか。これは新たな発見になった。《大食い》の効果は、胃が強化されて消化能力が上昇するというのと、食事をする際に量が倍になるらしい。さらに太りそうだ。
おおっ、しかもそのタイミングで《称号コレクター》という称号を得た。称号自体はほかのものに比べて増やすことが容易とはいえ、この称号を得るまで15個も獲得してるんだから当然っちゃ当然か。
《称号コレクター》の効果は、現在所持している全ての称号の効果が上昇するんだとか。これまたとんでもない相乗効果を生み出しそうだな……っと、きりがないのでそろそろ『命令』でとある一言を言わせ、分身に食べるのをやめさせることに。
「ご馳走さま」
たったこれだけで何もかも解決するんだから本当に便利な呪文だ。さあ、みんなで冒険者ギルドへ出発するとしようか。
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