一〇五話
「影山あぁぁっ、死ぬがいいっ!」
「っ!?」
至近距離まで迫った虎野が、少し宙に浮いたかと思うとそこから人間離れした怒涛の蹴りを見せてくるので驚く。
これがあれか、『稲妻疾風脚』ってやつか。
どれだけダメージがあるか食らってみたが、全然痛くないし派手なだけだな。
『アナライズ』でダメージを調べたら、一桁のダメージが五秒くらい続く程度だった。
なんだ、この眠くなるようなカスダメージは……。俺は影山に扮しているとはいえ中身は変わってないわけで、自分の防御力が高いせいもあるんだろうが。
「オラオラ、どうしたのだ!? 守るだけか!?」
虎野にとっては俺が防戦一方に見えるらしく、どんどん攻撃を仕掛けてきた。
「それじゃ面白くないぞ、来い!」
「…………」
「ふむ、何故来ないのだ? お前は女か? 女なのか!? 影山あっ!」
調子に乗ったのか、近距離から『念動拳』を連発してきたかと思うと、さらに『天竜拳』とやらを放ってきたので、試しにノーガードにして食らってみる。
「隙ありっ! 昇天するのだああぁっ!」
「っ!?」
これは派手なアッパーカットみたいな感じで、15くらいダメージが出たから威力はあるようだが、その分アホみたいに隙だらけだから笑えた。さて……遊ぶのは飽きたし、もうそろそろいいだろう。俺は最後の仕上げに入ることにした。
――虎野竜二の視点
(うぬう……影山のやつ、中々耐えるな。こいつに関しては、昔ワンパンでKOして泣かせたイメージしかなかったが、こんなにタフなやつだったか?)
虎野は疑問を抱きつつも影山に対して技をかけ続けており、攻撃をやめることはなかった。
相手がどんなにタフだとしても、一方的に攻めているのはあくまでも自分なのであり、いずれは間違いなく倒せると確信していたからである。
だが、あまりにも倒れないので業を煮やした虎野は、従えている近藤と浅井の手前、強硬手段に出ることに。
「ふむ、ならばそろそろ本気を出してやる……。遊びは終わりだ、影山あぁぁっ!」
虎野はスキルの使用をストップし、影山の胸ぐらを掴んで地面に叩きつけると、全体重を乗せた棘つきの拳を文字通り顔面にめり込ませた。
「ムンッ……圧倒的勝利だ……」
ピクリとも動かなくなった影山の前で、血まみれのソーンナックルを高々と突き上てみせる虎野。
「我が闘争に一片の悔いなし――ん……?」
だが、その驕った表情に早くも翳りが現れる。影山の死体が忽然と消えたかと思うと、ナックルにこびりついていたはずの血も消失したからだ。
「こ、これは一体――」
「――アヒャヒャッ! ボス、無様ですねえ!」
「ぬっ……!?」
虎野が驚愕の表情を浮かべる。すぐ目の前には、いつの間にか永川が立っていたからだ。
「な、永川だと? 今までいなかったのに、これは一体どういうことなのだ……」
「とにかく、僕が相手しますよっ」
「こ、小癪なっ、おそらく妙な術を使って影山に成りすましていたのだろうが、貴様如きが俺様に勝てると思うなああぁぁっ!」
「ぐぎゃぁっ!」
「……フンッ、雑魚めが」
繰り出した拳が永川の薄い胸板を貫き、勝利の笑みを浮かべる虎野。
「くだらない遊びはこれで終わりだ――って……なっ、なんだと!?」
一転して彼の目が泳ぐのも当然で、胸に風穴を開けた永川だけでなく、近藤と浅井の姿まで消えてしまったからだ。
「どっ、どういうことなのだ、これはっ! 何か卑劣な手段でも使ったというのか!? 出てこい、俺様が相手になってやる――!」
「――威勢がいいなあ」
「っ!? こ、この声は……」
現れた一人の男を前にして、虎野の目が零れるほどに見開かれるのであった……。
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