二話


「なっ……」


 まさかと思って外を見ると、景色がそれまでのものとはガラッと変わっており、もやがかかった谷底が周囲に広がっているのがわかった。


 本当に異世界に召喚されたのかよ。それも学校ごと……。


「おいおい、異世界だってよ!?」


「マジかよ……」


「ありえねー!」


「しかも、周りは谷底じゃねえか。これじゃ一歩も外に出られねえぞ!」


 周りの生徒たちの反応も、もうダメだと頭を抱えたりよっしゃ異世界だとガッツポーズして喜んだりと様々だった。担任の反田はいつの間にやら逃げ出したのかいなくなってる。


 お、また少女の声がどこからか聞こえてきた。


『コホン……話の続きですが、この世界のモンスターはとても強く、私たちは常に脅威にさらされています。それゆえ、救世主を求めるべく召喚したのです』


「…………」


 救世主、か。とりあえず一人ずつ探してたら面倒だし、学校ごとまとめて召喚したって感じかな。


『この世界では異次元通販を利用できます。あなた方の持つ石板……いえ、スマートホンでもつながるようにしただけでなく、スキルを無料で得られるようにしておりますので、どれか好きなものを一つだけお選びください。二つ選ぼうとすると一つ目は削除されてしまい、異次元の彼方へ消えて復元できませんのでご注意ください』


 異次元通販だって? 魔法が電波のようになっていて、スマホでも異次元を通してスキルを貰えるってことかな、それはいい……。


「ヒヒッ、ちょっとスマホを預かりますよ、如月」


「あっ」


 笑みを浮かべながら俺からスマホを取り上げたやつがいた。不良グループの一人、長髪の永川清ながかわきよしだ。


「か、返してくれ、永川。頼むから」


「おい……クソ優斗、返してくださいだろ……? 敬語使え、ぶっ殺すぞ、コラ……」


「うっ」


 横から威圧した顔で割り込んできたのは、不良仲間の影山聡志かげやまさとしだった。ボソッとした陰気な口調が特徴だ。


「か、返してください、永川さん、影山さん。俺、スキルが欲しいんです……」


「はあ……? ダメに決まってんだろ、コラァッ……。ボスとナンバー2の近藤さんから言われてんだよ。てめえがまともにスキルを得られないようにスマホを取り上げろってな……」


「キヒヒッ。影山の言う通りです。ボスと近藤さんの命令ですから、まだ返せませんよー」


「くっ……」


 教室の隅にある不良グループの巣をちらっと見やると、190センチ100キロほどあるガタイのいい通称ボスの虎野竜二とらのりゅうじと、ナンバー2の近藤孝彦、さらにはボスの彼女の浅井六花の姿があった。


 虎野は校長の息子なだけあってその影響力は滅法強く、逆らったいじめられっ子が何人か窓から突き落とされているが、自殺だと断定されてしまってお咎めなしだ。


 要するに、いじめられっ子の俺が良いスキルを獲得して復讐できないように、あらかじめ手を打った格好ってわけだ。


「おーい、みんなー、いいスキル、取りましたかー!?」


「「「「「はーい!」」」」」


 永川の言葉で、全員がスキルを獲得したのか手を上げる。俺の……俺のスキルは残ってるんだろうか……。


「さあ、そろそろいいですね。残りカスみたいなスキルしか残ってないですから、返してあげます。ヒヒッ」


「ど、どうもありがとうございます」


 永川からスマホを返してもらい、起動してみると【戦士】とか【魔術師】とか色んな有用そうなスキルが画面に表示されていたものの、既に獲得されたらしくていずれもバツ印がついていた。


 残っているのは、【HP+50】や【攻撃力+10】みたいな、大して役に立ちそうにないゴミスキルばかりだ。これじゃ異世界で生き残れるとは到底思えない。


 そんなスキル群ですらも余り物の中ではマシに見えたのか、俺が迷っている間にどんどん消えていった。うーん、妥協するべきだったのか?


 みんなニヤニヤした顔でこっちを見てくるので悔しいが、ここは急がずになんとしても自分がこれだと思うものを選びたい。


 おっ、なんだこれ。まもなく自分の目に留まったのは、【ダストボックス】っていうスキル。これってゴミ箱って意味だよな。どんな効果なんだろう。


 俺は獲得すべきか迷ったが、なんとなくピンときたのでこれに決めた。頼む、良スキルであってくれ……。

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