一〇七話
「行くぞ、オラアッ――!」
「――ひぎいいいいいいいいぃっ!」
虎野――いや、鶏野の悲鳴が屋上にこだまする。
ちなみに、誰なのか判別できない程度に拳で整形してやったが、それ以上やると死にそうだから殴ってない。
じゃあ俺が今何をやってるかっていうと、『テラー』+『ラージスモール』でやつの恐怖心をこれでもかと増幅し、殴ろうとして寸前で止めるということを繰り返していたのだ。
鶏野はそのたびに情けない鳴き声を上げ、泡を吹いて失神、失禁していたので面白かった。もちろん『レイン』や『タライ』ですぐ起こしてやるが。
「ごほっ、ごほぉおっ……」
「ふー……。そろそろ遊ぶのも飽きてきたし仕上げといくかな。これからお前の体を改造してやるからありがたく思え」
「……ふぇ……ひゃ、ひゃいぞう……?」
「そうだ。改造だ。嬉しいだろう? お前はこれから、永川や影山のように人間じゃなくなるんだからなあ……」
「……やっ、やべで。ひょれだげは……」
「ダメだ」
「やべで……やべでええええぇぇっ……!」
かつてボスと呼ばれた男の、人間として最後の叫び声が虚しく響いた。
その日の夕方、俺は2年1組の教室へ舞い戻ってきた。もちろん、天の声を拝聴するためだ。
『お知らせがあります』
お、来た来た。それにしても、ヒナって普段どこから呼びかけてるんだろう? 今度話す機会があったら聞いてみるか。
『実は前回、お騒がせしてしまったとのことで、2年1組の方々へ、仮面の英雄さまから、お詫びとして寄贈したいものがあるようです』
やはり彼女は屋上での一部始終を見ていた上、お膳立てまでしてくれた。これを期待してたんだ。
なんだなんだと周囲がどよめき始める。もうすぐ面白いものが見られるぞ……。
「――コケコッコーッ!」
「「「「「っ!?」」」」」
けたたましい鳴き声がしたことで、どよめきは一層大きくなった。
元巨人のジャイオンが籠を抱えて教室に入ってきたわけだが、その中には一匹の鶏が入っていたのだ。
『それは、ご覧の通り、一匹の鶏さんですっ! どうか皆さま、可愛い――いえっ、奇妙なペットを見て癒されてくださいね。それではっ……!』
「な、なんだあの鶏……」
「でけえっ……!」
「つーか、なんか顔が人間っぽくね?」
「人面鳥!? しかも誰かに似てるような……」
「俺もそう思った。誰だっけ? チキンの癖に妙にふてぶてしい面構えだよな」
「…………」
誰かに似ていると感じた生徒は勘が良い。というのも、あれは元が虎野だからだ。『マテリアルチェンジ』によって俺が鶏に変えてここまで運ばせたってわけだ。
「フンガーッ!」
「ひっ……!?」
ジャイオンが反田を怯ませつつ教卓の上に籠を置くと、役目を終えたことで俺のほうに頭を下げて元の場所(体育館)へ帰っていった。
あいつに関しては『ラージスモール』をかけたので以前よりサイズは小さくなったが、今や俺が主人で餌もたまにやってるんだ。
さて、次は不良グループの様子を見てみるか。永川、影山に続いて虎野が変わり果てた姿になったことで、もう残りはあの二匹――近藤と浅井――だけになってしまったが。
「パシリ仮面から寄贈されたんならよおっ、あの鶏は面も気に食わねえし、徹底的にいじめてやろうぜえっ!」
「近藤君、それいいねえ。人面鳥とか超キモいし、何より顔が生理的に無理」
「まったくだぜえ。っていうか、アレ見て思い出したんだけどよお、ボスがちっとも帰ってこねえし、どうやら影山と相打ちになったっぽいなあ」
「うん、そうみたいね……。でももう殴られる心配もないし、ぶっちゃけ脅されたから付き合ってただけで好きでもなんでもなかったし、別にこんな終わり方でもいいかなあって」
「ぶははっ、浅井は相変わらず冷酷だなあ。そんじゃ、これからはおいらと付き合うかあ!?」
「そうね……うんっ。あたし、これからは近藤君と付き合うっ」
「げへへっ、じゃあ早速やろうぜえ。おいら溜まってたんだあ」
「え、ここで!? や、やーん、超刺激的……」
「…………」
おいおい、こいつらの変わり身の早さは一体なんなんだ。
「コケーッ! コッコッコ! コケコケコケエエェーッ!」
近藤と浅井がいちゃつくのを見て、鶏が騒ぎ始めた。まあ中身は鶏野だからな、仕方ない……ん、反田の目が怪しく光った。
「こいつめ、うるさいぞっ! 静かにしろっ、こんのクソチキンめがああぁっ!」
「グワーッ!」
「「「「「ギャハハッ!」」」」」
鶏が反田から教鞭――いや、レイピアで激しく突かれ、血飛沫と悲鳴を上げると教室は笑い声に包まれた。
こうなるのはわかっていてあえて寄贈したわけだが、本当にこのクラスにピッタリな癒され方だな。まあやつの姿は鶏ではあるが、ステータスは高いままだからどれだけ虐待されても耐えられるだろう……。
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