七五話


「さー、よく眠れたから出発するぜ!」


「禿げあがるほど同意じゃっ!」


「うん! 出発進行ぉー!」


「ガンガン行くわよっ!」


「お、おうっ!」


 自分の高めのテンションが霞んでしまうくらい、朝食後のファグたちはみんな元気満々だった。


 やっぱり昨日見た夢の影響があるんだろうな。リズは俺にウィンクしてきて、よかったわよなんて呟いてきたし、本気で事後だと思ってるみたいだ。まあこれでしばらくは大人しくなってくれるはず。


「ふわあ……」


「ほぇ……?」


 俺が芝居で欠伸してみせると、不思議そうな顔をしてるミア以外ニヤニヤしてるので、昨晩何があったか察してるっぽい。『夕べはお楽しみだったのう』というキーンの呟きで失笑が上がる始末。


 さて、いつものように眠ると見せかけて分身を置いていくか。もちろん結界も張っていく。


 それから『ワープ』で学校のトイレまで行くと、【ダストボックス】へ飛び込んだ。ラビにサイコロを振らせるためだ。別に自分でやってもいいんだが彼女にも役目を与えたいし、お祭りはみんなで盛り上げないとな。


「…………」


 って、あれ? ベッドにラビの姿はなかった。また俺を驚かすために隠れてるのかと思いきや、シャワールームから物音がしてるしそっちにいたのか。


 そうだな……向こうはまだこっちに気付いてないっぽいし、逆に驚かせてやろう。


 物陰に隠れて待つのもありだが、こっちから入ったほうがびっくりするだろうってことで、俺は腰にタオルを巻いてシャワールームへと入ることに。


「ふんふんふーんっ」


「…………」


 そこには見知らぬ幼女がいて、シャワーを浴びていた。


「え、誰……?」


「あ、ご主人さまー!」


「え……ええっ!?」


 裸の幼女に抱き付かれるが、俺はまったく事情が呑み込めなかった。


「驚いたぁー? モコねぇ、人間に変身したんだー! わっふう!」


「モ、モコだって!?」


「うんっ」


 俺の足に頬ずりしてくるモコ。見た感じ、尻尾もないし完全に人間だが……。でも、ラビ以外でここにいるってことは、モコしかいないよな。


「ってことは、『限界突破』を自分に使った?」


「うん。それでねー、こうしてシャワー浴びてたの!」


「しかも、言葉も話せるんだな……」


「色々、ここで学んだよ。本とか読んで」


 あぁ。確かに、ラビが退屈だろうと思って図書室から幾つか拝借してきていたんだった。


「偉いなー」


「えへへっ。もっと褒めてぇー!」


 幼女の髪を撫でてやると、確かにモコの感触があった。もふもふは髪の部分だったか。そうだ、彼女のステータスを確認してみよう。

__________________________



 名前 モコ

 年齢 7

 性別 女

 種族 モフモフ族


 HP 35060/35060

 MP  4125/4125


 攻撃力 2323

 防御力 4527

 命中力 1286

 魔法力 4125


 所持能力

『変身』

『復元』


 ランク 未知級


__________________________



「ちょっ……!」


 思わず声が出てしまうのも当然で、モコの未知級としての力が覚醒していた。


 ニンジン三本食べたラビ並みか、それ以上に強いってわけだ。一日一回しか使えないとはいえ、とんでもない化け物だな……。


「ユートさま、そこにいるのですかぁ?」


「「あっ……」」


 シャワールームに、眠気眼のラビが入ってきて、モコと裸で抱き合ってる姿を見られてしまった……。


 うわ……彼女の目から光がすーっと消えていく。


「う……うさああああああぁぁっ!」


「「っ!?」」


【ダストボックス】内は、ラビが大暴れしたことであっという間に滅茶苦茶になってしまった……。




「――はうぅ……そんな事情があったんですね。ユートしゃま、ごめんなしゃいでしゅうぅ……」


「い、いや、いいんだ。もうすっかり元通りだし。なあ、モコ」


「もきゅっ」


 あれから、モコの『復元』能力によって、壊れたシャワールームとか、何もかも元通りになったからな。


 3分以内であれば、生命であれなんであれ壊れたものが一瞬で元通りになるっていう、未知級らしいとんでもない能力だ。もちろん、幼女姿も解除されて今はラビを慰めるように彼女の膝の上にいる。


「それじゃ、ラビ。サイコロを振ってくれるかな?」


「あ、ひゃい! ラビに振らせなさーい!」


 サイコロを持ったラビが目を光らせ、派手に転がしてみせた。さあ、何が出るかな、何が出るかな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る