九七話


「わりいが、しばらく……ほんのしばらくでいい。一人にさせてくれ……」


「「「「ファグ……」」」」


 洞窟に閉じ込められていた村人たちを解放し、連れ戻したことで活気を取り戻しつつある村だったが、ファグはあれからずっと酒場にこもりひたすら酒を呷っていた。


 まあ相手がろくでもない連中とはいえ、かつての仲間たちを自らの手で葬り去ったわけだからな。そんなに簡単に心の傷は癒えないだろうってことで、俺は耐性が上がる『レジスト』の魔法をファグにかけて、ミアたちと黄昏色に染まった外へ出ることにした。


 無理矢理『スリープ』で眠らせることもできるだろうが、それじゃ心の喪失感は回復できないはずだし、酒と時間が解決してくれるのを待つしかない。


「あ、そうだ、はまだあるかなあ」


「「「お花畑……?」」」


「うん、みんなついてきてっ!」


 そういや、この村はミアの故郷でもあったな。彼女の称号である《お花畑》と何か関係があるんだろうか。とりあえず、俺たちはあっという間に遠ざかったミアの背中を追うことに。ありゃバフ――【支援術師】スキルの身体能力が向上する魔法『ストロング』を使ってるな……。


 お、あれか。まもなくそれらしきものが見えてきた。ろくに手入れもされてないのか雑草だらけになってて酷い有様だが、それでも綺麗な花々が所々に顔を覗かせていて、村人たちの癒しの場所になっていたことが容易に窺える。


「もー、どうしてこうなっちゃうの……」


 泥だらけのミアが雑草を刈りながら愚痴を吐くも、本来の意味でのお花畑と再会できた嬉しさが勝ったのか笑顔だった。そうだな、俺もいっちょ手伝ってやろうかってことで、『ウィーディング』という除草用の魔法を作成し、早速使用してみた。


「「「おおぉっ……!」」」


 ミアたちから歓声が上がる中、見る見る雑草が刈り取られて綺麗になっていったので俺も感動した。ついでに『レイン』を使ってしおれた花々を蘇らせることに。


「「「「……」」」」


 見違えるように生き返って夕陽を浴びる花園は、しばし言葉を忘れてうっとりと眺めてしまうくらい美しい光景だった。


「――そうだ、あのね、ここで僕の思い出話とかしちゃってもいい?」


「「「もちろんっ!」」」


 というわけで、俺たちはミアの話を聞くことに。どうして彼女に《お花畑》や《辻支援者》なんて称号がついたかも知っておきたいしな。


「僕ね……まだちっちゃいときから、このお花畑の周りでいつも遊んでて、知らない人にも挨拶してたからか、村の人たちからそんなんじゃ誘拐されちまうぞってよく言われてたんだあ」


「ってことは、もしかしてそれで《お花畑》って呼ばれるように?」


「うん……って、えっ!? ユート、なんでそんなこと知ってるの?」


「うっ……」


 まずいな。勝手にステータスを覗いたなんて口が裂けても言えないし。


「ミア、《お花畑》だなんて、そんなの普段のあんたを見てればわかることでしょ」


「うむっ。リズの言う通りじゃ。ミアは頭にも花が咲いてそうだから羨ましいわい」


「あ、それどういう意味!? リズもキーンもひどーい!」


「ははっ……」


 どうやらリズとキーンのおかげで上手くごまかせたみたいだ。


「んもう……話の続き! お花畑の周りで色んな人と知り合いになれたこともあって、ここら辺で手伝いとかするようになったんだ。荷車を押したりとか、怪我した人を支えたりとか。そんなある日、90歳くらいのおじいちゃんがやってきたの……」


「…………」


 そこまで話したとき、より感情が入ったのか、ミアの表情に変化が生じるのがわかった。どうやらここからが話の本筋のようだ。

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