十五話
「ユートさま……今から私を、お散歩させなさい……!」
「ははあっ」
そういうわけで、俺は気が進まなかったものの、ラビを【ダストボックス】から復元させて散歩させることに。まあ、閉じこもってばかりだと体に悪そうだしな。
もちろん心配だから俺もついていくが、一応仲間を持っていないっていう設定なんで、【隠蔽】で自身を隠しつつ彼女の隣を歩く。
「「「「「おおおぉっ!」」」」」
すると、廊下の窓際でたむろしていた男子生徒たちの視線をすぐに独り占めすることになった。ラビは見た目も可愛いし、こんな際どい服装だしで当然だな。俺としてはちょっと複雑だが。
「ユートさまっ? ちゃんと私の側にいますかー?」
「大丈夫」
「あ、ユートさまったら、そこにいたのですね。もっと近くに寄りなさい。ぎゅっ」
「ちょっ……抱きしめられたら、いくら隠れててもなんかいるってバレるから」
「はぁい」
一瞬ヒヤッとしたが、周りのやつらに訝しがってる様子は今のところ見られない。ラビの刺激的な服装に夢中になっていてそれどころじゃないみたいだ。というか、どんどん人が集まってくる。中には女子もいるが、ほとんどが男子で嫌らしい笑みを浮かべていた。
「そ、そこの兎耳の君っ、もしよかったら、僕の仲間にならない!? なんでもしてあげるよ!」
「お、おいお前、抜け駆けは卑怯だぞ、俺の仲間にしようと思ってたのに!」
「いや、そこの二人、待ちたまえ! この兎ちゃんには最初から私が目をつけていたのだ!」
「「「はぁ!?」」」
「…………」
なんか、ナンパしてきた連中同士でラビの取り合いが始まってしまったので、むかついた俺は【魔法作成】スキルで『スリップ』の魔法を作って即座に使用した。
「「「ぐあっ……!」」」
三人とも足を滑らせて派手に横転したので周囲から笑い声が上がる。いい気味だ。
それにしても、こんなにも人気だというのになんでラビは捨てられたんだろう? いくらこの子の命令口調が嫌いだからといっても、獲得した彼女のアイコンを平気でゴミ箱にドラッグするような生徒が本当にいるのかと疑問に思う。
それこそ、この騒ぎを聞きつけて元の飼い主が取り戻しにやってこないか心配にもなるが、仮にやってきたところで絶対に返すつもりはない。一度捨てておいて今更所有権を主張するのは都合がよすぎるしな。
ん、駆けつけてきた生徒たちの中から何か赤いものが放り込まれたと思ったら、ニンジンだった。あー、びっくりした。
「どうもですうー」
ニンジンを見事にキャッチしたラビがペコリと頭を下げる。やっぱり兎にとっては大好物なのか、嬉しそうに見つめたあと、瞳から輝きがスッと消えた。な、なんだ……?
「ラビ、どうした?」
「……あ……な、なんでもないですぅ」
「そ、そうか。お散歩はこれくらいにしとこうか」
「はぁーい」
ラビは散歩したことで、緊張もあって心身ともに消耗しちゃったのかもな。
そういうわけで、俺たちは男子生徒たちに追いかけられる中、廊下の角を曲がったところで素早く【ダストボックス】内へ入り込んだのだった。
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