一五二話
「さあ、仮面の英雄さま? いい加減抵抗するのは諦めて、服を脱ぎ脱ぎしましょうねえ……」
ヒナが無邪気な笑顔を浮かべながら、小動物を甚振るかのように俺の服をじわじわと脱がしてくる。
な、なんなんだこの状況。普通、こういうのって逆じゃないのか……? というか以前、彼女が偽仮面にやられそうになってたときと全然印象が違うぞ。今のヒナはうぶな子猫というより、ふてぶてしい猛獣みたいだ……。
「ヒ、ヒナ、一体どうしちゃったんだ? なんだかヒナらしくないぞ……」
「はい……? 私らしくないとは、どういうことですか?」
「そ、それは……つまり、こういうことをするような子には見えないってことだよ」
「こういうこと? ふ、ふふっ……」
「ヒナ……? 何がおかしいんだ?」
「あはっ……。だって……ユートさんって面白い方だなあと思って。こういうことって、好き同士なら当然の行為だと思いますけど?」
「そ、それはそうかもしれないが……ちょ、ちょっと待ってくれ、その前にトイレに行かせてくれ――」
「――逃げようったってそうはいきませんよ?」
「……うっ……」
ヒナの目が怪しく光り、俺は気圧されて何も言えなくなった。
「ユートさんの考えは、私がずーっと行動を監視……いえ、見守ってましたからお見通しです。強敵と戦う勇気はあんなにあるのに、好きな人を抱く勇気はないだなんて、そんなの絶対おかしいです。さあ、私と一つになりましょう。今この瞬間だけは、よこしまなペットのことなんて一切忘れて私に身を委ねるのです……」
「ぐぐっ……」
よこしまなペットと聞いて、俺はラビのことを思い出すとともに【ダストボックス】の中へと逃げ込もうとしたが、肝心のスキルが発動しなかった。
こ、これは……おそらく、以前ジルにやられたときのように所持能力の一つ『封印』のようなもので一時的に使えなくされたんだ。
ヒナはあいつと同じ神級モンスターだし、似たような能力を持っててもおかしくない。当然、スキルが使えないなら魔法だって同じことで、『ワープ』で逃げることもできない。
「もー……そんなに慌てなくても大丈夫ですよ? お互いに初体験同士ですけど、私がうんと頑張ってリードしてみせますからっ」
おいおい、初めてなのにリードできるのかよと俺は内心突っ込みつつ、彼女は神クラスなのでもしかしたら可能かもしれないと思い直す。いや、そんな悠長なことを考えてる場合じゃないし、あれこれと思考してる間にも物凄い力でどんどん脱がされていく……。
「――ふふっ……。とうとう私たち、下着だけになっちゃいましたね。まるで夢みたいです……。あとは、一緒に産まれたままの姿になりましょうねえ」
ヒナの手が俺の下着に触れるのがわかる。もうここまで来ちゃったら、抵抗したところで無駄だろうしやるしかないのかな。
すまない、ラビ。俺はこれからヒナと契りを交わすことになりそうだ――
「――ひっ……!?」
「ん、どうした、ヒナ……?」
「い、嫌あああああああぁぁっ!」
「っ!?」
ヒナが酷く怯んだ表情で悲鳴を上げたかと思うと、気を失ってしまった。
一体何が起きたのかと思って周囲を見渡すと、黒光りする虫が何匹も這い回っているところだった。
こ、これは、ゴキブリだ。いつの間にこんなに入ってきたのか。とてもじゃないが偶然の出来事だとは思えないが……。
「いやあ、危ないところであったな、そこの君」
「えっ……?」
いつの間にか、杖を持った白髭の老人がすぐ側に立っているのがわかった……。
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