七話
『お待たせしました、これより皆さまに食料と寝具を提供いたしますので、スマホの画面に着目してください』
待ちに待った天の声が鳴り響き、生徒たちがスマホを取り出す中、俺だけ永川のやつに没収されてしまった。
「か、返してください、永川さん」
「キヒヒッ、ダメです。如月、貴様はカスですから、残り物しか与えません!」
「そ、そんなー、食べ物もないんじゃ生きていけない……」
まあ残り物で充分なんだけどな。俺は内心そう思いつつ、永川の持つスマホに向かって必死に宙を掻く仕草をしてみせた。
「ふむ……如月、お前、ミジンコの分際でまだ生き残れるとでも思っているのか」
ボスの虎野が高校生離れした低い声を発する。ラ〇ウみたいな声だ。
「そうよ、格好悪い如月君。あなたみたいな雑魚じゃこの先どうせ生き残れないし、食事なんかしてもしょうがないって」
浅井にこれでもかと蔑まれた目を向けられる。
「おいらも同意だあ。如月い、食料がなくなったら、おいらがお前をナイフで切り裂いて食ってやるぜえ!」
近藤のやつ、俺を殺すだけじゃなくて食う気かよ。
「てかよ……絶対不味いだろ……こんなゴミみたいなやつを食べても……」
「「「「「どっ……!」」」」」
「…………」
影山の言葉でオチがついたのか爆笑の渦が巻き起こる。
もう何を言われても小動物に煽られてるようで、こっちのほうが遥かに強いんだからあまりダメージはない。担任の反田も含めて、いずれ密かに一匹ずつ処理してやるつもりだ。それも、この異世界を冒険する上でのおまけ感覚でな。
とはいえ、ちょっとはむかついたので、『レイン』という魔法を作ると、やつらの頭の上に降らせてやった。
「「「「「っ!?」」」」」
やつらは揃ってびしょ濡れになり、びっくりした顔でお互いの顔を見合わせていた。ちょうど窓が全開だったこともあり、そこから横殴りのにわか雨でも降ったと思ったのか、誰が窓を開けたんだとか最悪とか口々に怒鳴り始めたので俺は笑いを堪えるのに必死だった。
やがて教室内は食べ物で満たされ、苛立っていた不良グループも宴会みたいなムードになり、俺のことを気にする様子もなくなった。
さて、その間にトイレへ行くと見せかけて【ダストボックス】へ入るとするか。誰かが欲張って違うものを獲得してくれれば、既に獲得していた食料が捨てられたものとしてあの中に入ってるはずだからな。
着いて早々に【ダストボックス】へ入ると、新しい箱が5個追加されていて、開けてみたら皿に乗せられた熱々のスープやらチキンやらが入っていた。
「うまっ……!」
どれもこれも熱々だし味も抜群だったので、俺はすぐに平らげてしまった。
ふう、なんだか眠くなってきたな。あとは寝具さえあればと思ったが、残念なことにそういうのはなかった。まあベッドがなくても眠れると思ったが、そうだ、自分で作ればいいんだ。
「――あれ……」
そういうわけで、俺は『クリエイト』というモノづくりができる魔法を作り、ベッドを出そうとしたものの、詠唱後に『材料が足りません』と表示された。
さすがに材料がないと厳しいかってことで、【ダストボックス】から出ると旧校舎へ向かった。あそこなら要らない机や椅子が沢山あるから材料になるはず。
二階の渡り廊下を歩き、旧校舎の教室に入った俺は、後ろに投げ出された壊れた椅子やテーブルに向かって『クリエイト』を使ってみることに。
よし、イメージした通りの豪華なベッドが出来上がった。まだまだ材料はいっぱいあるし、この調子で椅子やテーブル等を作って【ダストボックス】に入れるとしよう。あとは整理するだけだ。
「おおっ……!」
思わず弾んだ声が出るのも当然で、いつの間にか【ダストボックス】内はゴミ箱とは思えないほど、立派な部屋へと生まれ変わっていた……。
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