一〇一話


「――ふう……」


「「むにゃぁ……」」


 翌朝、俺はラビとモコに抱き付かれた状態で目を覚ました。二人ともまだぐっすり眠っている様子で、服とかかなり乱れてて正視し辛い。


 一晩経ってもモコの状態が人間のままなことから、おそらく彼女が『復元』を使わない限り元に戻らないっぽいな。


 さて……今日はいよいよ不良グループのボス、虎野竜二を処刑する日だ。だからなのか、起きたばかりだっていうのに高揚感が物凄くて、信じられないほどアドレナリンがドバドバ出ている感じがする。


 まさか、いじめられっ子の俺が虎野を叩きのめす日がやってくるとは。本当に感慨深い……。


 とりあえずその前にファグたちのところへ行くとしよう。『アバター』がそろそろ消えかかってる頃だろうしな。


 って、あれ? また俺の分身だけ宿の一室に取り残されてて、外から何やら会話が聞こえてくるパターンだった。


「重要な話とはなんなのじゃ? ファグよ」


「そんなに改まって、どうしたの、ファグ?」


「今日のファグ、ちょっと変だよ……」


「…………」


 どうやら、これからファグが大事な話をしようとしてるところらしい。俺がその場にいないのに、一体どんな話をするっていうんだろう。


「――エルの都へ向かうのは、しばらく待ってほしい」


「「「えぇっ……!?」」」


 こりゃまた意外な台詞がファグの口から飛び出した。あれだけエルの都へ行きたがっていた男なのに。


「だから、ユートを起こさないでくれ」


「ファグよ……お前さんはエルの都へ行くのを一番楽しみにしておったというのに、どうしてなんじゃ?」


「そうよ、ここからだとあと三日くらいで到着できるって言われてるのに……」


「ねえねえ、一体どうして?」


「なんでかっていうとな、《ゴロツキ》だった俺が言っても説得力なんてねえかもしれねえけどよ……守りてえんだ」


「「「守りたい……?」」」


「あぁ、この故郷の村をよ……。商人ギルドの連中は情報を共有し合ってるだろうし、俺が殺したあの商人が帰ってこないことで、約束を反故にされたと思って必ずこの村を襲ってくるはずだ」


「「「なるほど……」」」


「あと、この件はユートには言わないでくれ」


「「「えぇえっ!?」」」


 これには俺まで声を出しそうになってしまった。おいおい、ファグは俺に頼らずに決着をつけるつもりなのか。


「元はといえば、かつての仲間がやらかしたことだからな。できれば俺一人で決着をつけたいところだが、あいにくそんな力量はねえ。それでも、ユートはあくまでも傭兵だ。こんなことまであいつにおんぶにだっこじゃ、いずれ愛想を尽かされる可能性だってある。だから、俺たちでもちゃんとやれるってところを見せてやりてえんだ……」


「「「ファグ……」」」


「…………」


 ファグの志は立派だが、だからって死なれたらたまらないので、俺は彼らの前に姿を見せることに。


「「「「ユート!?」」」」


「話は聞いてたよ。ファグ、俺も力を貸す」


「け、けどよ……それじゃお前に悪すぎだし、いつか払う予定の報酬だってとてもじゃねえが払えねえ――」


「――それなら、既に充分貰ったよ。これまでみんなと一緒にいた時間が何よりの報酬だし、俺はもう仲間なんだから今回も一緒に戦おうじゃないか」


「「「「ユート……」」」」


 みんな俺の台詞を聞いて感激した様子だった。


「ふわあ……ただ、まだ寝足りないから、何かあったら起こしてほしい」


「「「「ワハハッ!」」」」


 いつもの言動で落ちがついたのか、その場は笑いの坩堝と化した。さあ、気持ちも体も温まってきたところで、いよいよ学校へ行くとするか……。

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