四六話


「こ、ここは、あの世か……?」


「あ、あっちの世界なのぉ……?」


「パ……パラダイスかのっ!?」


「そ、そこそこ綺麗だけど、ちょっと狭い天国ね……」


「…………」


 まあいきなりまったく別の場所に移動したわけで、ファグたちがそう思うのもしょうがないか。


「ここは俺のスキル――いや、魔法の中だよ」


「「「「「……」」」」」


 俺の台詞にみんな唖然としている様子だったが、まもなく納得した表情になった。


「さ、さすがユートだぜ。つまり、咄嗟に魔法で異空間を作り出し、そこに俺たちを避難させたってわけだな!」


「なんていうか……ユートは次元が違いすぎるよ……」


「わし、に入信してもいいかの?」


「キーン。それ、あたしも入りたいんだけれど……」


「俺も入るぜ!」


「僕も!」


「ははっ……」


 俺はあっという間にユート教の教祖になってしまった。


 ん、沸いていたファグたちが急に凍り付いたように動かなくなった。なんだ?


 その恐怖に満ちた視線は、いずれもベッドでお昼寝中のラビに向けられている。


「ま、ま、マジ、かよ……」


「こ、今度こそ、終わりだよぉ……」


「ま、まさか、そんな……」


「い、いったい、どこから紛れ込んだ、の……」


「ファグ、ミア、キーン、リズ……?」


 みんな見る見る青ざめたかと思うと、項垂れて応答がなくなった。またしても気絶してしまったようだ。


 まさかラビを見てそんな反応をされるとは夢にも思わなかった。これは一体どういうことなんだ……?


「むにゃ……ユートしゃま……だいしゅき……ぎゅっ」


「…………」


 ラビが抱き枕をこの上なく圧縮してる。


 確かに彼女はやたらと力強いところはあるが、それは亜人だからしょうがないしなあ。


 とりあえず、みんながラビを怖がってるのは事実なわけで、俺は自分たちの乗った馬車を【ダストボックス】から出すことにした。


「――うわっ……」


「ヒヒーンッ!」


 俺だけじゃなく、馬が驚きの声を発するのもわかる。周りが本当に景色が一変するほど焦土化してしまってたからだ。


 それにしても、自爆する鳥が普通に出てくるなんて恐ろしすぎるな、この世界のモンスターは……って、感傷に浸ってる場合じゃなかった。ファグたちを起こさないと。


「「「「うっ……?」」」」


 目覚める効果もある回復魔法『エリクシルヒール』で起こしてやると、みんな一様にはっとした顔で周囲を見渡し始めた。


「あ、あれ……? もしかして、異空間の魔法が解けて、元に戻れたのか……って、あいつがいないな……あ、危なかったぜ……」


「ホントだぁ、いなくなってる!」


「ど、どうやら助かったようじゃな。やつがいないし、命拾いしたぞい……」


「よ、よかった。あれがいないなら、本当に助かったのね、あたしたち……」


「…………」


 俺が何よりびっくりしたのは、ファグたちがこの焦土化した状況には目もくれず、ラビがいないことに心底安堵している様子だってことだ。そんなに怖いか?


「なあ、みんな。あの子のどこが怖いんだ? 俺の仲間なんだけど……」


「「「「っ……!?」」」」


 正直、ファグたちの驚いた顔のほうが怖いんだが……。


「わ、悪いことは言わねえ。ユート、あいつとは今すぐさよならするべきだ」


「ぼ、僕もそう思う」


「あ、あれは、キャロット族の、それも上位種じゃからのー」


「そ、そうそう。確か、ラビっていうんだっけ? たった一匹で、都を一つ滅ぼせるくらいの力があるんだとか……」


「…………」


 つまり、災害級かよ。しかもリズが名前を知らないはずなのにラビって言ってたし、ドラゴン族のレッドドラゴンのように、種族の中でも細分化された一族の名前ってことか。


「でも、ラビはいい子だよ」


「「「「っ!?」」」」


 いや、だからそんなにいちいちビビられたらこっちも怖いって。


「さすがユート。あんなやべえのも飼い馴らしちまうなんてな……」


「強い人には強いがいるもんだねえ」


「うむ。ただし、ニンジンだけは与えてはならんぞ!」


「あ、あたしもそれ聞いことあるわ。ラビにニンジンを二個与えると、垂れた兎耳を逆立てて暴走しちゃうらしいわね」


「…………」


 もうなんかサ〇ヤ人並みだな。今考えると、ラビはニンジンを食べて酔っ払ってたっていうより、理性を失って暴走する寸前だったってわけか……。

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