九九話


 その日の夜、俺は村の宿に『アバター』を残して【ダストボックス】へと入った。


 ラビにサイコロを振らせるためというのと、ほかに何か捨てられてるものがないか確認するためなんだが……残念ながらこの村にはなかったようだ。人口が格段に多いであろうエルの都に期待だな。


「「キャッキャッ♪」」


「…………」


 そういえばラビとモコがいないと思ったら、シャワー室から弾んだ声がしてきた。しかも、モコも人間化してるっぽい。


 こ、これは……男としては絶対に入らなきゃいけないだろうってことで、俺はドキドキしながらも服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて入場する。


「あ、ユートしゃまあっ」


「わっふぅー、ご主人さまーっ」


「っ!?」


 一糸纏わぬ状態のラビとモコに抱き付かれたわけだが、いくらなんでも破壊力がでかすぎた。


「お体を洗いますからぁ、じっとしてなさいっ」


「モコも洗ってあげるぅー」


「うっ……」


 しかも、だ。卑劣にも二人で俺を挟撃した挙句、体を洗ってくるという禁断の手段まで使ってきた。これはもう、理性が完全に破壊されそうだってことで慌てて『レジスト』や『クール』の魔法をかけたが、それでも意識が朦朧としていた。


 さらに『セージ』という賢明になる効果の新魔法を作って、すぐに使用することでようやく我に返るものの、この分だとは長続きしなさそうだ……。


 これはなるべく早く逃げ出さないといけない苦境だと思うが、それを逃すまいと二人の攻撃は執拗に続いていた。


「あれえ。ユートさま、お鼻から血が出てますよお?」


「不思議~、洗っても洗っても出てくるよぉー?」


「ぐ、ぐぐっ……」


 いや、この出血はどう考えてもお前たちのせいだろうと内心突っ込みつつ、ようやくラビとモコによる怒涛の波状攻撃は終了した。


 いやー、快楽――いや、ダメージが強すぎて本当に死ぬかと思った。『アナライズ』で測ったらそれこそとんでもない数字が出そうだな……。


「――さて、今日はサイコロの日だ」


「はうぅうー! サイコロの日ですぅぅー!」


「サイコロー?」


 ん、はしゃぎまわるラビをモコが指を咥えながら見ている。もしかして彼女もサイコロを振りたいんだろうか。それなら公平にいかないとな。


「よーし、二人でじゃんけんだ」


「「えぇっ?」」


「勝ったほうがサイコロを振る」


「「っ!?」」


 お、ラビとモコの表情が変わった。二人とも戦う目をしている。


「私は絶対に負けないですよおおぉっ」


「モコだって、負けないんだもんっ」


 火花まで散らし合ってるし、こんな真剣なじゃんけんは未だかつて見たことがない。というか、二人ともやり方を知ってるんだな。異世界でも浸透してたのか。


「うさあああっ!」


「もふううぅっ!」


「…………」


 ラビが出したのはチョキで、モコが出したのはグーだった。勝負ありだ。


「わっふう! 勝った勝ったわーい!」


「は、はうぅ……ま、負けましたあぁ……」


 飛び跳ねるモコの隣で膝から崩れ落ちるラビ。まさに明暗くっきりだ。


「いっくよぉぉっ。もふっ……!」


 いじけるラビを尻目に、モコがドヤ顔でサイコロを持ち上げ、勢いよく転がしてみせた。


 彼女は未知級なだけに、なんか、いつもと違うことが起きるような、そんな予感がする。さあ、何が出るかな、何が出るかな……。

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