一二〇話
「「「「「ぐがー……」」」」」
翌朝、起床した俺は鼻と耳を塞ぎたくなるほど【ダストボックス】内は酒の匂いとファグたちのイビキで蔓延していた。
ここだったら間違いなく安全ってことで、いつもよりグビグビ飲んでたからな。
「はうぅー、ユートしゃま……もっとぉ……」
「もにゃ……ご主人さまー……」
「…………」
ベッド上ではラビとモコが抱き合った状態で眠っていて、どっちも服が大いに乱れていたので朝っぱらから鼻血が出そうだった。
さて、今日はいよいよ近藤を処刑するおめでたい日なわけだが、俺は教室へ向かう前に保健室へと飛んだ。プリンとホルンの二人を一刻も早く安心させるためだ。
「――そ、それじゃ、ユート。本当にプリンたち、もうすぐ出発できるの……?」
「できるのでありますか、ユートどの……?」
「あぁ、近いうちに必ず一緒に行くよ。約束する。プリン、ホルン、待たせてしまって悪かったな……」
俺の報告に対して、彼女たちは心底ホッとした様子を見せるとともに涙ぐんでいた。ずっと慣れない環境で過ごしていただけに、ようやく故郷へ戻れるという喜びが溢れ出した格好なんだろう。
「ぐすっ……よかったの……あ、そうだ、ユート」
「ん?」
「プリンね、聞きたくないけど、聞きたいことがあるの……」
「聞きたくないけど、聞きたいこと?」
「うん……。ホルンとも話してたんだけど、あの日、プリンたちと談笑していたユートと、割り込んできたユート、どっちが本物だったのかなあって……」
「それがしも気になっております……」
「あー、そのことね――」
俺は答えようとしたものの、寸前で迷いが生じて口を噤むことになった。
正直に言ってしまうと、あの談笑していたユートが偽者で、放置していた俺が本物ってことになるのでがっかりさせるんじゃないかと思ったからだ。かといって嘘をつくのもなんか後ろめたいしなあ、どうしようか……。
「実は、あれからプリンさまと話していたのであります」
「ん、ホルン、話ってどんな?」
「それが、どっちが本物なのか、という話です。失礼ながら、割り込んできたほうが本物ではないかという結論に至った次第でありまして。もし違ったのなら失敬……」
これは意外だった。俺はてっきり、プリンとホルンは談笑していた偽物のほうを本物だと思っていたのかと。
「それで正解だよ」
「「やっぱり……」」
「でもどうしてそう思ったんだ? 二人とも、あのときは偽物じゃなくて俺のほうを疑ってるように見えたんだが……」
「あれはプリンさまと共謀してやった芝居であります」
「芝居……!?」
「はい。そもそもユートどのは忙しいと聞いていたため、急に訪れてきたかと思えば昔話を始めたので、何か妙だなと。確信があったわけではないのでありますが、それであのとき、本物であろうユートどののほうに疑いの目を向けることで、偽物から標的にされるのを避け、足を引っ張らないようにした、という次第でして……」
「なるほど……」
つまりプリンとホルンは、偽物のほうを疑えば人質にされてしまう等、余計に俺に負担がかかるかもしれないと判断したんだな。
あれだけ巧みに俺に成りすませるような手強そうな相手だから、二人とも細心の注意を払った格好か。ヒソヒソと会話していたあのとき、こういうことを話し合っていたわけだ。
「意図があったとはいえ、恩人のユートどのに辛い思いをさせてしまい、本当に申し訳ない……」
「ごめんなさいしたくないけど、ごめんなさいなの……ぷいっ……」
「いや、いいんだ。二人にそんな深い考えがあったとも知らずに、信じてもらおうと必死になってた俺がバカだった」
「恐れ多い。ユートどのがバカならそれがしは阿呆であります」
「じゃあ、プリンは底なしの馬鹿だもん……」
「あはは……それじゃ、この辺で」
「「了解っ」」
そういうわけで、保健室を後にした俺は2年1組の教室へと向かった。
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