第5話 関係悪化

 


 スクロールは一度開けると、開けたものにスキルを与え消失する。

 だが鑑定されていないスクロールは、どんな効果があるか分からないので、一般探索者ならDDSの買取窓口で簡易鑑定を受けてから、使用か売却かを決める。


 ドロップ品は一般探索者ならDDIなり、企業なりに売却する。探索者の大事な収入源だ。

 迷高専では授業中にドロップしたものは教師に渡し、後日鑑定結果とDポイントをもらうことができる。

 




 俺たちが初めてドロップしたスクロールは、光の粒子となって消えた。

 そして皆の興奮は一気に覚めた。


「あ~~~っ」

「何やってんだ、大和」

「おまっ、バカ!」

「うそだろ!」


 悲鳴にも似た言い合いは教師によって遮られた。ダンジョンの中で騒げばモンスターがよってくる。


「まだ授業中だぞ。騒いでないで隊列を組み直せ!」


 班員は担当の監督付き添い教官の方を振り返り、若干青ざめる。スクロールを開けてしまったことでどんな罰則が課せられるかなんて、校則には書かれていない。


 その後意気消沈気味で探索を続けるが、再びモンスターとの戦闘が始まれば気にしている場合ではなくなった。そして以後はトラブルなくその日の授業は終了した。

 授業終了はその日の終わりではなかったが。


 当然俺たちの班は呼び出しをくらった。

〝二年度ではスキルの取得は禁止〟なのだから。

 基礎戦闘力をつける段階であり、学校は統一した指導を行うとしてスキルありきのカリキュラムを組んでいない。

 それは三年度からだ。


 俺のスクロール開封は教師も見ていたこともあり不可抗力とされたが、罰として反省文の提出と1ヶ月の外出禁止に職員便所の掃除を言いつけられた。


 最初は「投げた前橋が悪い」「受け損ねた鹿納が悪い」「はしゃぎすぎた皆が悪い」と言いあっていたのだが、1週間がすぎた頃からは責任のなすりつけあい、罵り合いとなり俺たちの関係は徐々におかしくなった。


「なあ、俺らなんで便所掃除やんなきゃいけないんだ」

「そーだよな」

「スキルゲットしたのは大和だけだし」

「だよなあ、俺たち損してるだけだよな」


 学生は勝手にスクロールを開くことのみならず、ドロップ品を所持、取得することを禁止されている。授業中にドロップしたものは、学校側にすべて提出しなければならない。

 後日提出した品に見合ったダンジョンポイントが付与される。

 班での実習授業中であれば、Dポイントは班員に均等分配される。

 このDポイントは、学内の購買部や食堂などで使える電子マネーのようなものだ。

 学内だけではなくJDDSの施設でも使用できる。ただJDDSの施設とはレートが違うので、大方学内で使用している。


 スクロールを開封してしまったため、スクロール分のDポイントが手に入らなかったことも、不和の原因だろう。

 学内の購買部では日用品なども販売しているので、Dポイントはあればあるほど学生生活も潤うのだ。


 徐々に俺に対する5人の態度は悪くなって、3週目には俺一人で掃除をする羽目になっていた。

 班の雰囲気も悪くなり、俺は実習中でも会話に入れなくなっていった。

 クラスメイトも、スキルを得た俺に徐々に冷たくなっていった。これは班の五人が自分の友人などに話を広げたせいだ。

 

 やがてそれは授業にも影響を出し始める。班の5人は、実践授業で示し合わせて俺にモンスターのトドメを刺させないようにしだしたのだ。


 俺が望まず、手に入れたスキルは光魔法の一つで、コモン星2C☆☆の〈ライト〉だった。

 スキルの〈ライト〉によって灯される光は、ランタンや懐中電灯よりも光量があり、ちらつきも少ない。

 本来取得できないはずのスキルを取得してしまった俺に、スキルを使わせないようにするのが筋ではないだろうか。


「灯りで照らせ」と言い出した班のリーダーである前橋に、班の監督付き添い教官は注意することなく黙認した。

 多分教師の方も何か処罰があったのだろう。俺には知らされなかったが、もしかしたら前橋たちは知っていたのかもしれない。

 今となってはどうでもいいが。

 以降俺は班の〝灯り係〟となり、ほぼ戦闘に参加できなくなった。

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