第139話 衣装合わせ?


「みんな、オッケーよ」

「「「はーい」」」


 仮縫いのアンダーウエアに着替えた途端、まるで覗ていたようなタイミングで松本がカーテンを開けた。そして後ろに控えて待っていた女子を呼ぶ。

 すると四人の女子が俺の周りにやってきた。


 女子に囲まれるなんて人生初……一人女子じゃないけど。


「軽く足を開いて立って、動かないでね」


 松本がいう通りに立つと、女子二人が足元にしゃがみ込む。


「あ、動かないでください、針刺さりますよ」


 ロングの競泳水着のようにぴっちり張り付くアンダーウエアの裾の長さを調整する部員が、顔をあげ声をかけてきた。思わず両手を某所を隠すように持っていってしまう。


「両手を横に伸ばして。袖の長さと脇下の具合を見るから」


 松本が手を広げろと、俺の腕を掴んでTの字に持っていく。

 すると残りの女子二人が袖の長さを確認してマチ針をうつ。


「次は両手を上に、今度は腕を回してみて」


 袖の長さを調節し終わると次々と指示を出す松本。裾の調整が終わると、腿上げとか屈伸とか色々させられた。


「うーん、臀部のあたりはもう少し余裕がいるわね」

「ちょっ!」

「ほら、逃げない」


 いきなり松本にお尻を撫でられて逃げると、パシンと叩かれた。ううっ。


「これビープシープとライズアップシープの皮から刈った毛を紡いで作った布なの。さすがレアのウールだわ。吸湿性は最初から良かったもの。布にする時点で〈通気性〉が上がるように葉山副部長に素材合成をお願いしたの」


 葉山副部長は錬金専攻の四年度生だったか。職業スキルの《錬金術師》はレジェンド星5、《錬金の知識》と《錬金術》がどちらもエピック星5で学生では手にしにくいが、錬金術の単呪文の一つである《合成》や《素材合成》ならばはレアスキルだ。

 葉山副部長は《素材合成》スキルを持っているらしい。


「風属性のエアロウイングの羽を素材に使ったら通気性じゃなくって微風を纏う形になったけど、これはこれでありよね」


 アンダーウエアの上から履くためのボトムスを松本に差し出され、履きかけたところで止まる。


「エアロウイングって……」


 エアロウイングは第三迷高専うちのダンジョン十六階層に出る鸚鵡のようなモンスターだ。ドロップ品の羽か風切羽を合成素材として使ったのか。


総合服飾クラブうちには錬金系呪文持ちが葉山副部長と白木先輩がいるからね。三年度生はまだ《加工》スキル以外持ってない人もいるけど。あ、そのボトムスはスキップゴートの革に衝撃吸収効果を付与するためにグミスライムを合成してあるわ」


 グミスライムも十四階層で出る物理攻撃耐性のある大型スライムだ。


「今回は色々試せて楽しかったわ。普段手に入らない素材にどんな効果が出るのか合成するのが楽しくって」


 そこに別の女子を連れた葉山副部長が戻ってきた。


「サマースカーフは部長が〝五本作れる〟って言ったそうだけど、一部付与実験に使わせてもらったので四本よ。お母さんとおばあさん、それと妹さんにあげるんでしょう? そのつもりで染色してみたんだけど」


 ボトムズの裾調整にまた身動きが取れない俺の前に女子が三人進みでる。


「これもエアロウイングを合成して通気性がアップしています。色は爽やかな新緑をイメージしました」


 広げられたサマースカーフは何色かの緑色が綺麗なグラデーションを描いていた。もう一人の女子が青いサマースカーフを広げる。


「やはり青は見た目でも涼しげですが、そこに氷属性スライムを合成することで〈冷感〉が付与されています」


 広げられたサマースカーフは青だがムラに染められていて一色ではない。


「こちらはゴスロリコートと同系統のピンクを使ってます。トーチリザードの鱗を合成することで〈熱耐性〉が付与されています」


 ひな用を意識して染められた薄いピンク地にそれより濃いめのピンクのドット柄だった。


「最後がこれ、黄色をベースに青と緑をオンブレ・ストライプに染めてみました。これにはミラーカープの鱗を合成することで〈熱反射〉効果を付与してます」


 ぼやけたストライプがサマースカーフが揺れると銀色の光沢が現れる。

 最初の三つはどれも効果は(極小)だが、葉山部長が広げた最後のサマースカーフは効果が(小)だった。しかしダンジョン外でもその効果は出るんだろうか?


「まあ、ダンジョンの外ではその効果は十分の一になってしまうけど、全くないわけじゃないわ。オッケーちょっと動いてみて」


 俺の心を読んだのか松本が効果について説明してくれた。

 しかし確かミラーカープはエピックモンスターだったんではないだろうか。しかもこの辺りでは京都のダンジョンで出る鯉型モンスターだ。魚のくせに水中を泳がず地面を這って移動するやつだ。


 最後はベストの下にきれるトレーナーだったが、これも装着後色々な動きをさせられた。戦闘時に引き連れたり体の動きを阻害しないか確かめるためだ。

 ようやく試着が終わって、制服に着替え外に出る。


「アンダーウエアも染めることができるけど、どうする? 迷彩柄もできるわよ」


 葉山副部長が訪ねてきた。


「暗い色がいいです。緑系か茶色系の黒っぽい色で、無理なく染まる色でお願いします」

「了解。で、サマースカーフの感想は?」

「随分合成素材を使ってませんか?」


 研究も兼ねているためということもあり、こちらは素材を提供して加工費は無料にしてくれるという話だった。だがミラーカープはエピックだ。それに何種類も使っているので、合成素材だけでも結構使っているんじゃないか。


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