第138話 あれこれ


 日曜の午後は近場の大坂ダンジョンに来た。

 空いた時間には探索してますというアピール目的なのだ。


「相変わらず、人が多いな」


 大坂ダンジョンの三階層を駆け抜けながらボソリとつぶやく。

 日曜というだけあり、休日探索者でいっぱいだ。

 人気のない場所が見当たらないため、一気に走り抜ける方を選んだ。大坂ダンジョンは五階層までは到達しているので一直線に……とはいかず、戦闘中の探索者をよけながら階段を目指す。

 一時間もかからず六階層に到着した。しかし六階層に出るのはコモンモンスターのみ、脅威度でいえば2から3あたりなので、低ランク探索者でも普通に戦える。そこが休日探索者が多い理由でもあるが。


 草葉から周囲の草を刈りながら不可視の刃が飛んできた。それをステップでかわす。六階層に入ってからサーチを使っているので潜んでいるのはわかっていた。

 ここは属性スライムが出るが、今のは風属性スライムのようだ。


 属性スライムは普通のスライムの性質に加え、属性の魔法スキルを持っている。

 まあ、魔法スキルといってもコモンの呪文スキル一つで、ごくごく稀に二つ持っているくらいなのだ。ただこの大坂の草原フィールドでは、草に隠れて視認しにくいため、不意打ちされることがある。俺はないけど。


 今のは〈ウインドエッジ〉だろうから、風属性スライムだろう。粟嶋先輩に手入れをしてもらったマチェットを投げると、ザクっと地面に突き刺さる音がする。

 確認すると、グリーンスライムが粒子化するところだった。

 粟嶋先輩に研いでもらったマチェットは、切れ味バツグンだった。ドロップの魔石を回収して探索を続ける。


 半日の探索だったが十階層まで到達できた。ボスはおらず、転移ポータルを使って戻る。

 協会事務所も混んではいたが、ここ大坂ダンジョンは窓口の数が多いので回転は早い。


 銀行などによくある整理番号発券機からプリントアウトされた番号は743だった。この番号毎日リセットしてる訳じゃないらしい。

 表示番号が3桁なので999まで行けば001に戻るのだ。


 今日は魔石と皮、爪の他はローヒールポーションが一本ドロップしたので売りに出した。

 半日だし、前半はほとんどモンスターに出会わなかったので、金額的には少ない。

 まあ日曜の大坂ダンジョンで、しかも午後からの半日なのでこんなものだろう。


 帰り道にチャットアプリに河中部長から連絡が来た。



河中>

  ┏━━━━━━━━━━┓

  ┃探索お疲れ様。   ┃

  ┃スカーフできたよ。 ┃

  ┃あとアンダーウエアも┃

  ┃仮縫いだけど合わせて┃

  ┃欲しいから放課後時間┃

  ┃取れるかな。    ┃

  ┗━━━━━━━━━━┛

                   大和

       ┏━━━━━━━━━━┓

       ┃ありがとうございます┃ 

       ┃明日の放課後、工房棟┃

       ┃に伺います。    ┃

       ┗━━━━━━━━━━┛


河中>

  ┏━━━━━━━━━━┓

  ┃B5で待ってるよ。 ┃

  ┗━━━━━━━━━━┛


 早いな、スカーフもうできたんだ。切って縫うだけだからそんなにかからないか。

 今週の放課後は来週からの中間試験の勉強をするから探索時間は縮小するつもりだった。去年は教室で勉強したが、今はマイボス部屋で勉強できるから授業が終われば帰宅するつもりだった。


 終校時間を気にしないでいいので楽だ。三年度に進級してからは色々ありすぎて、勉強どころじゃなかったんだよな。

 進級した途端座学の成績落とすのも良くないと思うし。


 スマホをポケットにしまい、帰路を急ぐ。今日はカウ肉でカレーを作る予定だ。





 授業では来週の中間テストの範囲が知らされ、テストの時間割も発表された。

 通常の科目とダンジョン学の科目があるから、試験科目が多いのだが普通高校のように試験期間中は半日とかにはならない。

 午前中の実技はそのまま行われ、午後から試験があるのだ、結構シビアだけど鍛錬を一週間丸々休むとかはない。




「いらっしゃい、待ってたわ」


 5Bの扉を開けた途端、待ち構えていたのは葉山副部長だった。松本じゃなかったことに少し安堵する。


「えっと、お邪魔します?」

「遠慮しないで、まずはこっちに来てくれるかしら」


 引っ張っていかれた場所は部屋の隅をカーテンで仕切った二畳ほどの場所。試着室というには広めな場所だ。


鎧下アンダーウエアの試着から始めさせてもらうわ。下着だけになってもらえるかしら」

「……下着だけ、ですか?」


 ここでもいきなり服を脱げと言われてしまった。


「アンダーウエアは人によっては下着もつけないと聞いたけど、今回のものは下着ありで作ってるわ」


 いや、そうじゃなくって、総合服飾研究部は九割女子なんですけど。

 俺の戸惑いをよそに葉山副部長はシャッとカーテンをあける。


「しーちゃん、あとよろしく」

「はーい」


 カーテンの前でアンダーウエアらしき束を抱えて立っていたのは松本だった。


「流石に女子の前で下着姿にさせないくらいの配慮はするわよ」


 パチンとウインクをかます松本。いや確かに女子ではないが。俺が戸惑っていると松本が足元に持ってきたアンダーウエアを置くと、カーテンを閉める。


「はい、もたもたしない。あとが待ってるんだから」


 そう言いながら俺のシャツのボタンに手を伸ばす松本。


「いや、自分でやるから!」


 思わず後退りして姿見に背中をぶつけた。割れなくて良かったけど、背後に逃げ場がなくなってその分松本に追い詰められた。


「ちゃっちゃと脱ぐのよ!」


 


 

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