第98話 サポート科って
「きゃー!レア素材、レア素材です部長!」
「あ、うん、落ち着いて松本くん」
人は感情が振り切れた人を見ると冷静になる時があるというが、ぽっちゃり部長は松本さんに先に興奮されて、そこに乗れなかったようだ。
そして「ありがとう〜鹿納く〜ん」とエコーを廊下に響かせ、ぽっちゃり部長を置いてひとり階段を降りていく。
ここは二階層への下り階段の手前、なんだかここが定場所になりつつあるな。
「申し訳ないね。レア素材なんて滅多に手にできないから。彼も興奮してるんだよ」
「でもコモン素材じゃあ、たいしたものは作れないでしょう?」
素材を加工して付加効果をつけるならコモンでは無理だ。最低レア素材でないと。
「まあダンジョン素材はコモンでも、普通の素材より丈夫だとかいろいろあるからね」
苦笑いで答えるぽっちゃり部長。
「それでも学校から提供されるものとは違う素材を提供してくれるだけでもありがたいよ。ましてレア素材なんて滅多にね。購入するにも限界があるから」
それはそうか。
「ところで、ずいぶん大きな……ああ、探索用のバックパックかい。バックパックも
軽さと丈夫さを兼ね備えたものを作るが、デザインや機能を疎かにせず、いかに探索の邪魔にならないかがテーマらしい。
「河中部長、昨日お渡しした分は妹のコートの分なんで、俺の分はこっちを使って欲しいんですが」
そう言ってビニール紐でくくりつけた皮束をバックパックから取り出す。
「こ、これは」
「一応シールに名前を書いてますけど」
ぽっちゃり部長は皮をめくってシールに書いてある名前を確認していく。
「スキップゴート、ライズアップシープそれにビープシープ、これはハウンドドッグ……全部レアじゃないか」
流石というか名前見てだけでレアってわかるくらい、素材の知識というか覚えてるのか。いやそういう授業もあるんだろうな。紡績系は。
「さっき渡した毛と同じモンスターの皮を持ってきてます。糸との相性とかもあると思うし」
アンゴーラカウのミルクシチューは肉と乳で相乗効果が出たと思われる。皮と毛もそういうのがあるかもしれないと、新井さんに鍋を返してもらったときに気付いた。
早めに渡しておけば、部員もしばらく研究にかかるだろう。けして詰め寄られる前に渡しておこうと思ったわけでは……いや思ったよ。さっきの松本さん見て余計にな。
「ありがとう、鹿納くん。これで素材の組み合わせ研究もできるよ」
「研究用なんで一枚ずつですが、実際の作成に必要な枚数はまた教えてください。希望枚数が揃うかどうかはわかりませんが」
ぽっちゃり部長は見えなくなるまで、俺の方を向いて手を振りながら階段を降りていく。
前向いて階段降りないと危ないと思いますが。まあサポート科でも四年度生ならそこそこレベルアップしてるか?
昼休みに突撃されたことで、放課後の用事が一つ減った。
今日は鍛冶工房へ行くだけだ。工房棟一階にあるA二号室。毎日炉に火が入っているわけじゃないので、今日は比較的静かだ。
実際炉があるのはA一号室だけで、二号室以降は細かい作業や何かしらをする部屋なのだ。
扉のノックをしようとしたら後ろから声をかけられた。
「あ、ヤマぴん、早いやん」
ジャージ姿の正村が小走りでやってきた。
「先輩は先に来てると思うから」
そう言ってドアを開ける。
「チャーっす。粟嶋先輩どこっすか〜」
「ここだよ、奥のサンプル保管室」
「昨日話したヤマぴん連れてきましたよ」
言いながら俺に中に入るように手振りで示す。作業台やら研磨機やらが所狭しと置かれている中で、端っこに四人がけのダイニングテーブルのような(いやダイニングテーブルだな)ところに案内された。
そこに身長百八十センチはありそうな……だががっしりとは程遠くひょろっとした体つきの男子生徒が現れた。
「えっと……」
「粟嶋先輩、こっちが探索科三年度生の鹿納大和で、」
「僕は技術部鍛冶専攻四年度生で
差し出された手指も細く、鍛治師というより雑誌のモデルのような風貌にちょっと驚いた。
「鍛治師らしくないでしょ」
「あ、いやそんな」
「そやなあ、粟嶋先輩みて鍛治師連想できるやつはおらんで」
ラノベのドワーフほどでもないが、鍛治師といえばがっしりした身体付きをしてるもんかと。
「スキルを使うから筋肉とかは必須じゃないんだよ」
俺の考えを読んで、いやいつも言われているのかも。粟嶋先輩はクスリと笑う。
「それでどんな素材があるんだい。君の希望もあるだろうけど素材によって作れるものは違うからね」
「あ、はい」
俺はバックパックから素材を取り出した。
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