第97話 振り向けば

 

 明日持っていく用の毛を袋詰めしようとして、困ったことに気付いた。


「コモン星5とレアしかない……」


 今日の様子を見てレアを渡すことに躊躇いを感じた。しかし佐々木に渡したリストには既に上がっているからいずれ請求される。

 うん、早めに済ませてしまおう。

 ……レアの三種の毛を持っていったら、絶対レアの皮はないのかと言われる気が、いや絶対言われるな。


 確か尾からも毛が取れるというか紡げるんだよな。裏山ダンジョンでは尾のドロップがあったんだよ。

 尾で換金もリソースかもしていないのは、ラビットとビックフットの二種だが、これは第三校ダンジョンでもいるので彼らには不要だろう。


 ということで今回は生狛ダンジョン九階層までのものを詰める。いや一応表向きは十二階層まで到達してることになってるから十一階層のハウンドドックも入れておくか。さすがにミラージュカリオンの皮は星5なのでやめておく。


・ヘッドバットゴートC☆☆☆☆☆

・ビープシープR☆☆

・スキップゴートR☆☆☆

・ライズアップシープR☆☆☆




 別の袋に詰めて隠し持っていくか。皮は全部星二つなんだよな。この中ではハウンドドッグだけが脅威度5なんだが、皮の買取査定ランクは同じだ。


・ビープシープR☆☆

・スキップゴートR☆☆

・ライズアップシープR☆☆

・ハウンドドッグR☆☆


 詰め終わったときに、またチャットアプリの着信音がなった。見るの忘れてたよ。


「正村か、ちょっとほっとした」


 しかしそれは俺の勘違いだった。


『先輩の協力取り付けた。明日早速素材持ってきてちょ』


 そのあとは持ってきて欲しい素材の一覧。そしてさっきの着信音は返事がないことに焦れたことによるものだ。


『ヤマぴん忙しいんか? 返事待ってるで』


 こっちも待ち遠しいタイプのやつだったか。返事を入力して送信する。


『了解。明日の放課後工房棟に用事があるから持っていく』


 返事を打ち込んだら即既読になり、返事がきた。


『さんきゅー。ほなA二号室までよろしく』


 了解のスタンプを送信、アプリを終了しようとしてもう一度素材リストを見る。


「次は爪と牙を詰めるのか……ああ、角もあったな。」


 別の手提げ袋を用意して、順番に詰めていく作業に入った。

 明日は探索用のバックパックを背負って学校に行く羽目になりそうだ。もう倉庫に放り込んでおきたいよ。 

 

 通学途中に総合服飾研究クラブの部員と会う可能性も考えて、バックパックを背負っての通学となった。

 そしてちょうど玄関を出ようとドアを開けると、呼び鈴を押そうとしていた新井さんと鉢合わせる。


「お、おはよう鹿納くん」

「お、おはよう新井さん。えっと何か?」


 言わずともその手にした鍋を見ればわかるんだが。


「これお鍋、ちゃんと洗ってあるから。すごく美味しかったよ。なんだか疲れも吹っ飛ぶほど」


 うん、疲労回復効果があるからね。差し出された鍋を受け取り、玄関横の流しに置く。


「そ、それとシチューのお礼にこれ」


 差し出されたのは紙のランチボックス。百均でも売ってるやつだ。


「いつもお昼コンビニで買ってるみたいだから、よかったら食べて」

「あ、ありがとう。それじゃあお言葉に甘えていただきます」


 差し出されたランチボックスを受け取り、礼を言う。


「ううん、口に合えばいいけど。あ、もう行かなくちゃ。それじゃあ」


 そう言って新井さんは足早にバス停に向かっていった。


「ふむ、マスターが餌付けされる側ですかにゃ」


 だから餌付けっていうなー!







 またも昼休みにそれは起こった。


 新井さんにもらったランチボックスの中は唐揚げとだし巻き卵とほうれん草のソテーが入っていた。だし巻きはしょっぱい系。俺は甘い系の卵焼きは好きではないので嬉しかった。

 昼食が終わってゴミを捨てようと立ち上がった時だった。


「きちゃった♡」


 振り向くとそこに二人の人物が。

 教室内だから近くに人がいることは普通なんで、気にしてなかったが、まさか真後ろに立たれていたとは。


「……河中部長と確か」

松本 忍まつもと しのぶです♡」


 ぽっちゃり部長と俺に「毛はないの」と迫ってきた三年度生だ。


「悪いね鹿納くん。実は午後の実習授業で糸を紡ぐんだ。それでよければ君の持ってきたものを使わせてもらいたくて。厚かましいとは重々承知しているんだよ。してるんだが」

「放課後まで待てないの」


 松本は両手を「ちょうだい」の形で揃えて差し出してきた。

 二人とも織布専攻だったな。三、四年合同授業なのかな。


「あの、ここじゃあちょっと」

「ああ、場所を変えようか」


 先に出ていくぽっちゃり部長の後を、足元においていたバックパックを持ってついていく。

 松本さんは俺の後ろをぴったりくっついてきた。

 俺というよりバックパック、その中身だな。


 ていうかやっぱり近いよ。



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「私しのぶ。今あなたの後ろにいるの」





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