Ⅳ章

第78話 ナビゲーションルームにて


 今年度の三年生に、パーティーを組まずソロで探索をする奴が一人現れた。


 確か三年前にも一人いたが、そいつは確か三年の三学期になってからのことで、こんな学年しょっぱなからではなかった。


「四月二日生まれって、学年で一番誕生日が早いっていうか、初日か」

「誕生日に免許とってすでに数回ダンジョンへ行ってるらしい」


 ここナビゲーションルームに詰める教官は、引退探索者が多い。しかも最低Bランクまでいった探索者に限られる。

 モニター越しの指導なんて学生に毛が生えたくらいの経験しかないDランク連中には無理だからだ。


 生徒の個人情報を束ねたファイルの中に、【六期生】とラベルが貼られたペラいものが混じっている。ペラいのはまだ一人分しかないからだ。


 直接担当した教官は二人だけだが、ナビゲーションルームには五年度生を担当していた他の指導教官もいた。


「三年生だろ。たった二時間で、しかもソロで七階層到達ってまじか」

「なあ、お前一昨日この三年生担当したんだよな」

「ん、ああHクラスの」

「……Hクラスのドベじゃねえぞ、こいつ。真っ暗でモニターには何にも写ってないけど、移動速度考えてもDランク級だろう」


 インターカムを外し、目の前の真っ暗なモニターを見る。今何も写っていないのは実戦実習が終わってカメラの電源が切られているからだが。


「オレも気になって調べてみたんだが、どうも春休みに一般に混じって免許とって新学期が始まってからも何度かダンジョンに潜ってるみたいだぜ。もうGランクに上がってるようだ」


 しかも罠が多くて不人気の生狛ダンジョンで、すでに十一階層まで到達しているのだとか。


「あそこって、【マッパー】の連中が八階層で諦めたやつか」


 【マッパー】とは協会や企業の他に大手クランに所属して〝地図作成〟を請け負っている者たちを指す。

 生狛ダンジョンは、土地の所有者である金鉄レジャーサービスと那良県が【消失】を選択したことで、地図を作ることの益がなくり、途中で中止された。

 地図を作るのはその地図を買うものがいるからだ。

 近く消失するダンジョンでは旨味が少ない。


 個人評価表をPCモニターに呼び出し、今日の評価を記入する横で、火曜日に担当していた指導教官が個人情報のファイルをめくる。


「鹿納ってこの前職員会議であげられてた三田の件の生徒か。こいつよく辞めなかったよな。オレだったら学校辞めて普通に探索者やってるぜ」


 ファイルを指で弾きつつ二年度の実績の欄を見る。


「せっかく高倍率の迷高専に入れたってのに、実力じゃなくてこういうのでつまずきたくはないよな」


 サーバーからコーヒーを注ぎながらそんな感想をいう。


「俺たちみたいに怪我や諸事情で引退した探索者じゃなくって、現役で指導教官になる奴は、どこか問題抱えてる奴が多いけど」

「教員免許持ってるわけじゃないから、ある程度お目溢しはあるが、三田は今期限りだろうな」

「指導教官の採用基準を見直した方がいいって話もあるみたいだぜ。五校でも若い教官がやらかしたみたいだし。単純にランクと戦闘能力だけじゃ採用されなくなるぜ」


 どこの学校も試行錯誤しているのだが、第一校が今年十年目で一番長く、この第三校は八年目、そして第五高は三年目で三年度生までしかおらず、教師と教官の数が一番少ない。

 希望者は多いが指導者は多くないのだ。


「いや、もう来年度の教官採用には経験年数と最終学歴も加味されることになったようだぜ」

「まあガキどもに教えるのが同じガキじゃあな」


 高校中退して探索者になったような者に、指導者としての資質があるとは疑わしいということだったので、教官に応募するには最低高校卒資格が必要とされたが、どこの学校を卒業したのかということは加味されなかった。

 学業は教員免許持ちが担当するということで、教官には戦闘能力と探索者としての能力が求められたのだ。


 指導教官はあくまで〝戦闘の指導〟をする者だから。だが三田のケースのような〝偏った指導〟をされては困るのだ。


 評価表に記入を終え、実際あまり書くことがなく短時間で終わってしまったのだ。今日大和の担当だった指導教官はシステムからログアウトする。


 実は途中マイクに音を拾わせないように、塞いでいる節が伺えたが「悪態でもついているんだろう」と特に記入することではないと判断した。



「さて、あとは任せてオレらも昼食にするか」

「おう、いってら」


 五年度生の探索は続いているので、全員一度に昼食というわけにはいかないが、大和を担当した教官は午後からは四年度生の担当があるため、先に食事に行ける日になっていた。


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 学校側の見解は〝偏った指導〟であって〝いじめ〟ではないということにしてあります。「いじめ? ないですよ」てわけですな。

 三田のざまあは大和の知らないところでおこってます。


〝6期生〟というのは大和が第三高が創立六年目の入学で、学校側は学年を入学年期で表示するのは普通にあることかと思います。


 次話更新は1月14日です。


 カクコン参加中。★&レヴューいただけたら琳太のモチベが上がるかもしれません。(//∇//)

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