第13話 裏山ダンジョン

 

 ダンジョンはほぼ下に潜っていくタイプだが、まれに登るタイプもある。

 塔型の特徴は昇降階段が螺旋状にあり、そこから任意の階層に進めるので探索の中断や続きがやりやすい。


 しかし、各階層へはフロアキーを手に入れなければ進めない。多くの場合フロアボスが次の階層のフロアキーを持っている。そしてほぼ全階にボスがいるのだ。下に行くために、毎階ボス戦をクリアする必要がある。

 塔型はキーを手に入れた探索者がいると、その階のボスは出現しない。

 そのシステムを使って低階層をスキップできるよう、〝案内〟する商売もある。


 ダンジョンに一番多い下層積層型では、フロアボスは五階層ごとにしかいないし、フロアボスを倒さなくとも進めるところもある。どちらがいいとかは好みの問題だろう。


「塔型かと思ったけど、三階層へいく階段はなかったから、たまたま入り口すぐに二階層への階段がある洞窟型かも」


 壁面はいかにも「岩をくりぬいた」風情を持った装丁だ。これは洞窟型の特徴でもある。

 場所によっては発光苔────よくヒカリゴケと呼ばれる────が、光苔は光を反射するだけで自ら発光しない。ダンジョンに生えている発光苔は苔自体が発光する。実はモンスターの一種で外に持ち出すと枯れるというか、死んでしまうのだ。

 すでにかなり研究がされ、発光苔【魔素】がなければ生きていけない植物系モンスターの一種なのだ。


 この発光苔のように、ダンジョン内には植物型のモンスターも存在する。発光苔のように無害なものから、トレントと呼ばれる〝動く木〟のように襲ってくるものから様々で、モンスターは脅威度によって分類されている。あ、ここもよく試験に出るぜ。




 俺は一階層の探索をすることにした。

 階段を降りずに横の通路を進むため、前方の天井に〈ライト〉を打ち上げる。

 十メートルほど進んだ先がY字に二方向に分岐していた。分岐の手前に〈ライト〉を追加する。

〈ライト〉を天井照明のように貼り付けた場合、10分から最長一時間くらいまで持たせることができる。

 今は大体30分くらい持続するようにしてある。


 分岐の手前で一度壁に身を貼り付け、右側の通路を覗く。十メートルほどまっすぐに伸びた通路は先でまたY字に分岐していた。

 最初なので、学校で習った探索基礎Ⅰの通りに、右一択で進んでいくことにする。

 そして十メートル先のY字分岐路に〈ライト〉を飛ばした。


「キイイィィ」


 突然モンスターの鳴き声がして、分岐路の向こうからラビットが現れた。

 俺の〈ライト〉に驚いたようだ。そして俺を見つけ、一直線に向かってくる。

 鉈を構え、ラビットを観察する。

 ラビットは、真っ直ぐ突っ込んでくるように見せて、直前で左右どちらかに跳ねる。

 その跳ねる寸前に、長い耳が進行方向とは逆に触れるのだ。

 よく観察し、見極めればラビットは対処は難しく無い。

 俺から二メートル手前で、ラビットの耳が右に振れた。

 身体を左に躱しつつ、鉈を振りかぶる。


「キィィェェェ……」


 ラビットの進路に鉈の軌道が重なり、ラビットは真っ二つになって、断末魔の悲鳴を残し黒い粒子となって消える。


「よし!」


 戦闘に一撃で勝利したことで、思わず拳を握る。

 そして足元にスクロールが転がった。


「え? またスクロール?」


 二度の戦闘で二個のスクロール。一体ここのドロップ率ってどうなってんの?

 いくら出来立てのダンジョンはドロップ率が高いと言っても、ラビットごときでスクロールなんて聞いたことがない。

 俺は拾ったスクロールをじっとみる。

 これを売れば……いやもし有益なスキルなら使って春休み中、あと一週間しかないがレベルアップに役立つんじゃないか。でも中身がわからないと使えない。

 まだどこのダンジョンにも入ってないことになってるのに、どこの支部の買取窓口に出すんだ?


 俺は【スクロールドロップ】に対して変な縁があるようだ。これは幸運なのか悪運なのかはわからない。

 未知のダンジョンの中、スクロールを手に考え込むなど、探索者として言語道断と言ってもいい。


「キイイィィ」


 不意に左から聞こえたラビットの声に、思わず左手に握っていたスクロールで打ち払ってしまった。

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