第12話 事件

 

 階段の下に気を失った父さんが倒れていた。

 階段を駆け下りそっと父さんの身体を触る。

 怪我をしていないか、頭をぶつけていないか? 頭を強くぶつけていたりすればゆすり起こすのはまずい。

 出血の跡を探すがそれはないようだ。


 身体に軽く触れながら声をかける。


「父さん、父さん」

「う、あ……大和か」


 父さんは意識を取り戻すと、ゆっくりと上半身を持ち上げた。

 よかった自分で起き上がれるくらいなら、とりあえず大きな怪我はないと思う。だが頭の怪我は見た目でわからないからすぐ病院に連れて行かないと。


「いてて、足元に階段があったとは。転がり落ちて気を失うとは情けない」


 ゆっくりと立ち上がり、肩を回し動きを確かめる父さんの後ろに動くものを捉えた。

 とっさに母さんの鉈を右手に持ち、父さんの横をすり抜け前に飛び出す。


「大和?」

「チッ!」

「ピギャーッ」


 気合を込めて鉈を振り払うと、飛びかかってきた〝ラビット〟の首に上手くあたり、首を切り落としはできないものの、ラビットはそのまま壁まで吹っ飛んでいった。

 壁に叩きつけられ、落ちたラビットに止めを刺すと、黒い粒子になって消えた。後にはスクロールが残った。


「え、スクロールドロップした?」


 ラビットはウサギに似たモンスターで大きさは中型犬ほどある。耳が長いのでラビットと呼ばれているが、どちらかというと鼠系のモンスターなのだ。


「やっぱりここはダンジョンなのか。すぐに出ないとやばいな。大和、どうも足をくじいたようだ。肩かしてくれ」


 俺はスクロールをリュックにしまい、父さんに肩を貸して外に向かった。

 

 親父は単に暗くて足元が見えず、階段に気付かず転げ落ちただけのようだ。

 母さんの言いようでは、てっきり親父は出来たばかりのダンジョン形成に巻き込まれたか、もしくは落とし穴トラップに落ちたのかとも思ったんだよ。


「父さん、お兄ちゃん」


 ひなが入口のすぐそばで待っていた。俺とは反対の親父の手をとり、同じように肩を貸そうとするが身長差のせいであまり役に立っていない。


「とりあえず病院へ行こう。頭を打ってるからちゃんと調べないと」


 倉庫を回ったところでちょうど爺ちゃんの軽トラが入ってきたのと、同時に母さんと婆ちゃんが玄関から出てきた。


「あなた」

「悠介」

「なんだ、どうした?」


 俺たちの様子を見て爺ちゃんが車の窓を開け、俺たちに聞いてきた。


 父さんが転げ落ちて頭をぶつけたことを説明すると、爺ちゃんは父さんを軽バンに載せ速攻病院に向かった。

 母さんは保険証やら親父の着替えやらを準備して、スクーターで追いかけてった。

 その時はみな〝とにかく病院へ〟という思いが強かった故の行動に出た。


 若干俺も動転してたかもしれない。

 結果的に大事にはならなかったからよかったものの、頭をぶつけたんだから安静にして救急車を呼ぶべきだった。

 

 ひなと婆ちゃんと三人で母さんを見送ったあと、俺は二人に声をかける。


「俺、ダンジョンの様子を確認してくる。新しくできたんだと思うけど、中からモンスターが出てこないとも限らないし」

「出てくるのかい?」


 婆ちゃんが不安そうに、裏山の方を見た。


「大丈夫だと思う。けど、念のため一階層だけでも間引いてくる」


 俺の言葉にひなと婆ちゃんが手を取り合って不安な表情を見せた。ひなは探索者になりたいんじゃなかったのか。


「そんな顔しないでよ。これでも一級免許を持った探索者なんだぜ」


 そう言って二人を家に帰らせて、一人ダンジョンに戻った。


 入り口がさっきより、若干大きくなっているようだ。頭がつかえそうな高さだったのに、今はすんなり通ることができた。

 緩やかな下り坂を十メートルほど進むと、陽の光が届かなくなるので〈ライト〉を天井に張り付くように打ち上げる。さらに進むと下り階段が見えてきた。さっきはすぐに降りたが見れば左に曲がる通路があった。


 階段を降りて天井に〈ライト〉を打ち上げ、あたりを探る。


「入ってすぐ下り階段ってことは逆さ塔型なのかと思ったけど」


 ダンジョンはほぼ下に潜っていくタイプだが、まれに登るタイプもある。

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