第11話 実家で
「おはよ、ひな」
「おそよう、お兄ちゃんもう直ぐお昼だよ」
リビングでテレビを見ていたひなの頭をこつく。
「母さんたちは?」
「お父さんとお母さんは、お兄ちゃんに食べさせるって裏山に筍取りに行った。お爺ちゃんは道の駅に納品、お婆ちゃんは台所だよ」
「おお、お昼は掘り立て筍の炙り焼きかな」
台所を通り過ぎ、洗面所まで行って、寝むけの冷めない顔を冷水で洗う。
タオルで顔を拭いていると、玄関の方が何やら騒がしい。タオルを肩にかけ玄関に向かう。
「母さん? ひな?」
「た、大変、大和、お父さんが」
母さんが右腕にできた大きな擦り傷を抑えるようにして、玄関にしゃがみ込んでいた。そこに救急箱を持って婆ちゃんがくる。
手当てをしながら事情を聞いた。
竹林で筍を取った帰り、竹林の崖下のところに大きな穴が空いていた。
つい先日までなかった穴を不審に思い、父さんと二人で中をのぞいたそうだ。
「穴……それってもしかして」
二十メートルほど進むと突然何かが飛びかかってきて、父さんは持っていた鍬ではたき落したところ、霞になって消えたそうだ。
「これ、ダンジョンじゃあないか。戻ろう」
父さんがそう言って戻ろうとした途端、足元が崩れてお父さんが落ちてしまい、どうにもできず慌てて戻ってきたそうだ。
母さんは慌てたせいで玄関前ですっ転んだだけらしい。
「け、警察、消防に助けを、いや探索者協会に電話……」
「そんなの間に合わない、俺が行く。何か武器になるものは……」
ひなが母さんが腰に下げていた鉈を指差す。
「にいちゃん鉈、母さんの腰にさしてる」
その言葉に母さんがベルトに挿していた鉈をとって俺に渡す。すると次にばあちゃんが台所から何か持ってきた。
「これ、爺さんの刺身包丁だよ」
その刺身包丁は爺ちゃんの大事なやつ。刃渡り28センチもあるなんか有名な人に作ってもらった〝名入り〟の包刺身丁だ。
「倉庫にロープあったよな」
俺は爺さんの包丁にタオルを巻いて腰に差し、靴をはきながら母さんに確認をとった。
「ああ、置いてある。場所、場所はわかる? 入ってすぐ右の棚よ」
「大丈夫」
それだけ聞いて俺は倉庫に向かって駆け出した。
倉庫に飛び込むと棚のロープを掴み、隣に並べられたカラビナをいくつかベルトに引っ掛けロープを吊るす。
梱包用のガムテープや野菜を束ねるのに使っていたビニールテープなどもカラビナに引っかけ腰にぶら下げて倉庫を出ると、ひなが走ってきた。
「お兄ちゃん! これ救急セットとタオルとお水」
父さんが怪我をしていた場合に備え、傷口を洗う水やタオル、車を購入した時にディーラーがサービスにくれた救急セットをリュックに詰めたものを渡してきた。
「サンキュー、ひな」
「うん」 竹林に向かって走り出すと、ひなもついてきた。
「おい、家に戻ってろ」
「私もいく、中には入らないから、前で待ってるから……」
親父が心配なのはひなも同じだ。
「お前は免許がないから、絶対中に入るなよ」
「うん、わかってる。お兄ちゃんお父さんのこと……」
「おう! 任せろ。行ってくる」
竹林は家のある土地より三メートルほど高い。ひい爺ちゃんが竹林が家の方に広がらないように、なだらかな斜頸だった土地を掘り下げて石垣をこしらえたそうだ。
そこに不自然に高さ1.5メートルほどの洞窟が出来上がっていた。
頭を屈め中に入ると一メートルほどは石垣っぽいがそれ以上先は土ではなく鍾乳洞の石灰岩のようなどこかつるりとした感触の壁に変わった。
「やっぱり竹林の下のこの位置でこの壁質、ダンジョンで間違いないな」
十メートルほどは緩やかな下り坂になっていた。外の明かりが届かず、奥は真っ暗だが俺には問題ない。
「ライト」
頭上に光球が現れ辺りを照らす。スキルが使えるし間違いない。
更に進むと下に続く階段があった。
母さんが「足元が崩れて父さんが落ちた」と言っていたので落とし穴かトラップかと思っていたが、そうではなかったようだ。
「父さん!」
階段の下に気を失った父さんが倒れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます