第14話 スクロール
【2021.01.02】15話と被っていた文章があったため修正しました。
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「ギャッ」
スクロールは羊皮紙のような質感の、画用紙程度の厚みのある紙を巻いてあるだけのものだ。武器とするにはたいした硬度のないスクロールで、ダメージらしいダメージは与えられないが、一応弾き飛ばすくらいはできた。
おかげで若干の距離と攻撃に移る時間が取れた。右手の鉈をラビットの頭部をめがけ叩き割るように振り下ろす。相手は体勢を立て直し飛びかかろうとする直前に、鉈の一撃を受け反撃を受けることなく倒すことができた。
黒い粒子となったラビットは小さな魔石を残し消える。
「まあ、毎回スクロールがドロップするわけないか」
開いた左手で魔石を拾う。
「ラビットの魔石の相場って百円くらいだっけ」
ズボンの後ろポケットに魔石をねじ込んで……
「あれ、スクロールは?」
左手にしていたスクロールを、落としたかと周りを見回すがどこにもない。
その時スクロールの使い方が脳裏に浮かんだ。
「……また開いたのか、俺」
一度ならまだしも、二度目ともなると不注意どころの話じゃない。
=《アイテム鑑定Ⅱ》はドロップアイテムのレアリティと名称を知ることができる。使用時は対象に手を触れる必要がある=
スクロールは【レア】の《アイテム鑑定Ⅱ》で名称の後ろに数字が付いているものは、熟練度が最初からその数字分高く、数字が大きいほど星の数が増える。
【エピック】の《鑑定》と違ってアイテム限定であるが、多分売却価格は数百万はいく。《Ⅱ》なので倍はするかも。
「うわ、これ売れればいい武器買えたかも」
またここで考え込んでる場合じゃなかった。気を引き締め直し、一階層を回ってラビットを十二匹ほど倒す。
流石に【スクロール】のドロップはなかったが、魔石以外にラビットの皮を二枚、ラビットの爪を三個ドロップした。
リュックがいっぱいになったので一旦探索は中止にして家に帰ることにした。
外は陽が沈みかけ、竹藪が夕陽に赤く染まっていた。
家に帰ると爺ちゃんが先に帰って来ており、陽が暮れてから母さんが帰って来た。
「父さんは念の為様子見で入院するけど、明日には退院できると思うわ」
母さんは腕に巻かれた包帯を撫でながらそう言った。
爺ちゃんが、真剣な顔を俺に向ける。
「結局、あれはダンジョンで間違い無いのか? 大和」
「うん、間違いなくダンジョンだったよ」
「じゃあ警察に、あれ? 協会だったっけ? 知らせないと」
「そのことだけど、ちょっとだけ待ってくれないかな」
ひなの言葉に俺がマッタをかけた。家族全員が訝しげな表情で俺を見る。
本当は学校でのことは話さないつもりだった。家族に心配をかけたくなかたっから。
帰省する前は、新学期が始まっても状況が変わらないのなら三年度で卒業するか、もしくは途中で中退して一般探索者としてやっていくかを考えていた。俺は探索者になりたいので、サポート科への転科は考えていなかった。
昨日の誕生日プレゼントでその件はなしになった。たとえ無様にもがきながらでも卒業の道を選ぶ。学校でできないレベルアップは、放課後や休日を使って一般探索者として鍛えればいい。そう決めた。
だがここにきて、チャンスが訪れたのだ。今の状況を覆せるかもしれないチャンスが。
食卓についていた全員と、台所から顔を出した婆ちゃんが俺を見た。
「婆ちゃんもこっちにきて座ってくれないか」
「なんだい、改まって」
エプロンで手を拭きつつ爺ちゃんの隣に腰を下ろし、家族全員が揃って俺に注目する。
一度大きく息を吸って気持ちを落ち着ける。
いじめを受けたなんて本当は恥ずかしくて打ち明けたくなかったけど、事情を話し家族に協力を求めることにした。
流石に家族に内緒でダンジョンに潜るわけにはいかない。心配をかけるだけだ。
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