第52話 生狛ダンジョン中層③
ここで前を行くタマが、罠を作動させた。
ガラガラガラガラ……
俺の目の前でポートカリスが落ちる。
「……おい」
「申し訳ないですにゃ」
格子の向こうでタマが申し訳なさそうに言うが、本当にそう思ってるのか疑問だ。
そのままタマは格子の隙間をするりと潜り戻ってくる。
子猫サイズのタマに格子は意味をなさないが、俺は通れないのだ。
回り道の先にトレジャーボックスを発見した。
「回り道してよかったですにゃ」
今度は自慢げに言ってくるタマ。そのドヤ顔なんか鬱陶しいぞ。
中身は解麻痺ポーションだった。
麻痺してたら動けないから使えないと思う。ソロには役立たずかもなポーションだ。
そんな感じで回り道をすることもあり、九階層への下り階段を見つける頃には、夜の八時になっていた。
ちなみに八階層では脅威度4のライズアップシープが出た。
=【レア・ライズアップシープ】【魔石40%・可食部20%・角10%。毛10%・皮10%・アイテム5%・なし5%】=
探索者の訪れることが少ない階層は魔石以外のドロップ率が高い。
客寄せの意味もあるのだろうが、あまり強い探索者にきて欲しくないダンジョンコアのジレンマが見える。
八階層ではライズアップシープ七匹の内訳は魔石3、肉2、毛2で、なんと肉が出た。いやドロップ率20%だから毛の倍だから出てもおかしくない。
ドロップ品には食材となるものがあり、しかも美味かったりする。
好事家が高額で買い取ったりもするらしいが、如何せん賞味期限が短いのだ。
肉の場合不思議な葉っぱに包まれており、だいたい一キロから二キロ前後の塊でドロップする。そして冷蔵しようが冷凍しようが一週間で腐るのだ。腐り始めるのではなく、突然腐るから「まだ食べられるかな」なんて悩む必要がなく食中毒の心配もない。
俺は《倉庫M》があるから、入れておけば腐らない。腐らないよな?
「大丈夫ですにゃ。肉ならタマも御相伴に預かりたいですにゃ」
普段は食べないが、ドロップ品は食べるタマ。これは魔素として取り込むことができるからだ。
ダンジョン外の食品は魔素がほとんどないから(ごく少量はあるらしい)取り込んでもエネルギーにならないため進んで食べようとはしない。
そもそもモンスターはエネルギー補給を胃腸からしてないから。
ライズアップシープ以外はリトルリカオン10匹とリトルウルフ12匹も倒した。
九階へ降りる階段を見つけた時点で、マイボス部屋に転移する。八階層では他の探索者を見かけなかったから、心置きなく転移した。
今日の探索はここまでだ。
夕食に早速ドロップ品の肉を焼くことにする。
いろいろ持ち込んでてよかった。味付けは塩胡椒と醤油くらいだが、それで十分である。
どこの部位とか全然わからないし、そもそもないのかも。
=【レア・可食部】《ライズアップシープの肉》=
可食部って肉以外はなんだろ。腸とかかな?
羊肉の料理ってジンギスカンかラムチョップくらいしか知らないけど、ラムは子羊か?
野菜とかないし、厚切りステーキでいいだろう。
さすがに刺身包丁で料理はしたくないけど他にないから、よく洗ってから使おう。
今度包丁とまな板も買ってこよう。
フライパンに塩胡椒をまぶした肉を乗せると、ジュワワ〜と油の焼ける匂いが立ちのぼる。めっちゃいい匂いする、よだれが。
生焼けだと寄生虫とかいろいろあるかもしれないけど、ドロップ品はそんな心配はしなくていいのだ。
なんなら生で食べても腹を下したりしない。実際にチャレンジした先人がいるのだ。
ダンジョン黎明期に探索中の食料が切れ、ドロップ品の肉を食べた豪気な探索者はかなりの数にのぼる。
タマは生でいいらしい。先に食べ始めてるよ。
皿は用意していないのでフライパンのままだが、いただきます。
おお、牛肉とは違う独特の臭み? いやくさくないから風味というのかな。口の中に広がる油の味も、脳に〝美味い〟とだけ伝えてくる。
硬いかと思ったが、普通に噛み切れるしもっと分厚く切っても大丈夫かも。
表面はカリッと、中はほんのり赤みの残るウエルダンっぽく焼いたが、ミディアムとかレアでも問題ないかも。
もう一枚今度はミディアムで焼いて食べようっと。
「私もその調理したものを食べてみたいですにゃ」
おう、じゃあ半分こな。
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