第162話 悩みは多い


 迷宮道具には《誓約書》と《契約書》がある。

《誓約書》は書かれた内容や条項を守ると誓うためのもので、誓う相手は自分自身。条件が他者に関するものであっても、誓うのはあくまで本人なので破った場合は誓約者にペナルティーが発生する。

《契約書》は複数人が書かれた条項を守るために交わすもので、破った場合ペナルティーは破った方に課される。よって《誓約書》と《契約書》では使われ方が違う。


 とはいえ、《誓約書》を他者との〝約束〟として使うことがほとんどなので、実情同じような使われ方をしている。

 レアリティーはレアからレジェンドまで存在する。ゴットクラスもあるだろうと言われているが、まだ発見されていない。


 レアリティーの違いでペナルティーの度合いが違うそうだ。


 《誓約書》のペナルティーはレアでレベルの低下、さらにエピックで保持スキルの初期化。失などが起こる。レジェンドの《誓約書》では保持スキル全消失とレベル初期化らしく、ダンジョンに入る前に戻ってしまう。これより上のゴッドがあるって言われているけど、初期化される以上のことってなにって思う。


《契約書》の方はペナルティーは任意で設定できる。

 当然ダンジョン関係に限ってだが、例えば「ドロップ武器を貸与、条件を守らなかった場合、武器は装備できなくなる」とかにする。条件を破るとたとえ職業スキルを持っていてもその武器がうまく扱えなくなり、アーツなども発動しなかったりするらしい。

 武器消失のところを「全てのスキル」や「◯◯スキル」とかで指定するとそのスキルが消失する。

 ただレアリティーの低い《契約書》でレベルの初期化を条件にしても、低下しかしなかったりするので、その内容はレアリティーに沿ったものにしないと意味はない。


 あくまでダンジョン関係のペナルティーしか設定できない。

 スキルにも〈契約〉と〈誓約〉があるが、スキルだけあってダンジョン内でしか使えず、ダンジョン内にいる時しかペナルティーが発動しない。

 だけど迷宮道具はダンジョン外で使えるものが多い。

 これは効果を発動するための魔力がスキルの場合、ダンジョン外では得られないからだ。


 迷宮道具の場合、効果を発動するための魔力は魔道具自体が持っている。

 鑑定の使った時点で発動するものはわかるが、こういう時間差というか後で発動するものはどうなのか。必要な魔力はものなり人なりの中にとどまるらしい。

 これは普段体の中に貯蓄される、スキルや身体能力向上に使われる魔力とは別なんだ。


 不思議ではあるがこうゆうものなんだと理解するしかない。


「ダンジョンマスターのことを〝口外しない〟という契約でパーティーメンバーを増やせればって考えたけど、エピックの契約書じゃあな。せめてレジェンドくらいないと、リスクがなあ」

「仲間が必要ですかワン」

「この駄犬なしでも大丈夫ですにゃ」

「愚猫がおらずとも我輩だけでマスターをお守りできますワン」


 まあ、戦闘に関してはパーティーメンバーは必要ないな。


「パーティーというか、サポートメンバーが欲しいっていうのが正解?」


 睨み合う球ポチの間に割って入り、頭にデコピンを喰らわす。


 ダンジョン探索においては、余計な仲間は必要ない。戦闘力に関してはポチたまの言う通り、今の状態で不便はない。まだエピック以上のモンスターと出会っていないというのもあるけれど。

 素材集めに関してもジャンピングワラビーの腹袋だけでなく、マスタースキルの《倉庫》のおかげで、100%回収できて取りこぼしなしだ。水に落ちた分は別だけど。


 でもそのせいで、ソロ探索者である俺がドロップをまるっと売りに出せなくなってきている。

 リソースに変えればいいんだけど、魔石はともかく、せっかくドロップした素材をリソースにしてしまうのは勿体無い。かといって買い取りに出すものが、本来ドロップ率の一番高い魔石が少ないというのも変に思われるだろう。


 淡島先輩や服飾クラブのように素材提供することで、オーダーで装備なんかを作ってくれるところもあるにはある。だけどそれにも料金が発生するし、順番待ちもある。


 佐々木のお父さんは娘の月子に素材提供するという交換条件で、特別に母さんたちに渡した毛皮の加工を優先で引き受けてくれたんだよな。


「探索のためのパーティーじゃなくって、サポートのためのクランだったら、ダンジョンマスターについては隠せるかな」


 それでもメンバーには信頼できると確信が持てる人間じゃあないとな。

 服飾クラブでも全員にあってないし、ちょっと接しただけじゃあ性格とかまではわからないし。


 淡島先輩もいい人だとは思うけど信頼できるかどうかなんて、わかるほど関係が深いわけじゃあないんだよな。


「田中だって、があるまでは仲が良かったわけだし、半年の付き合いでもわからなかったのに、ひと月の付き合いじゃあ何もわからなくって当然か」


 河中部長はいい人っぽいんだけど、持ってるスキルが《加工》だけらしいし、何よりレベルもスキル熟練度も低い。

 もうちょっとレア殿高い素材を扱って欲しくて、素材集めって理由でダンジョンに連れ出して、レベルアップしてもらおうかなんて考えたけど、それもうまくいくかどうかだよな。




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 きっと読者様には展開読まれているだろう、クラン発足。

 どう持っていくか悩み中のヤマトです。

 ダンジョンに連れていくのは素材集めだけが目的じゃあなかったという。

 前に4年度になってから河中部長が戦闘をしていないと聞いて驚いていたヤマトです。


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