発売記念SS 松本忍①
本日書籍発売です。「予約しました」のお声に感謝してSS投下です。
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それはゴールデンウィーク中の、出来事だった。
「部長、布の方どんな感じです?」
「ん、ああ、今日出来上がっているはずだから、明日持ってくるよ」
「出来上がり次第、葉山副部長に回してください。白井先輩から合成用素材の抽出は済んで葉山副部長の方に渡し済みだそうですから」
鹿納くんにもらった羊系や山羊系の皮から刈り取った毛から、先ずは糸に加工するため、染色班以外のメンバー全員で糸作りから始めた。
ただ《加工》のスキルがないとまともに素材を扱うことができない。
これが《紡績》系のスキルの、単呪文スキル〈糸生成〉があれば一瞬で素材を糸に変えることができる。
この従来の手順が省けるところが、皆がスキルを欲しがるとろね。
布の方はまだ作りやすい。布を織るという作業は素材を変質させる必要はないから、スキルのないものでも従来の機織り機を使って布を作成できる。
鹿納くんのアンダーウエア用の布は、糸の不足を補うため縦糸に普通の糸を使っているから、完成した後で〈素材合成〉をしてもらうことになっている。
今回縦糸に通常素材を使ったように、糸や布を《錬金術》で加工する方法がある。
普通に市販されている糸や布に《錬金術》を使って〈素材合成〉をする方法は、ダンジョン素材を使って作るものより性能が落ちるし、今回は完成品の方に〈素材合成〉をしてもらう予定だから、糸までお願いするには葉山副部長の負担が大きい。
錬金術師専攻もう二、三人欲しいところだけど、たいてい服より武具や迷宮道具の方に行くからね。一年生がスキルを手に入れるのは先すぎて間に合わないし。
学校にあるのは人力機織り機なので時間がかかるため、今回は河中部長の実家が引き受けてくれて、制作工程が短縮できた。
部長の実家は毛布をメインに作っているけど、布用の織機もあるらしく、おまけに縦糸も提供して下さった。
おかげで使って一気に織ってもらうことができて、布の完成が早くなった。
河中部長はスキルは《加工》しか持っていなかった。けれど鹿納くんが色々な素材を提供してくれて、そして今後も提供してくれると約束してくれたことで、ついに自腹(家族の支援あり)でレアスキルの《紡績》を購入した。エピックスキルの《紡績の知識》とかなり悩んだらしいけど。
戦闘系スキルと違って、生産系はそこまで値上がりしないといえ、《紡績の知識》は《紡績》とは桁が一つ違って七桁行くからね。
けれど取得したばかりで熟練度が低く、〈布生成〉はまだ取得できていない。〈糸生成〉は取得したんだけど、ちょっとタイミングが……。まあでもこれからも糸作りは嫌というほど必要になるから、頑張ってもらいましょう。
熟練度が上がれば、一度に加工できる量が増えるし。
うちの実家はたかだか弁護士なので、何の役にも立たないどころか邪魔をしてくるので、家族の協力が得られる河中部長が羨ましい。
邪魔をするのは父だけだけど、つぐほどの家系じゃないのに。
「了解。忍くん、縫合用の糸の方は」
「完成したので染色に回してます」
部長と進行の確認をしていると、
「忍せんぱーい、ストール染色と素材合成終わったって、副部長から預かってきましたぁ」
錬金術専攻の工房は別の教室なため、まだ何のスキルも持たない一年生が運搬兼連絡係というパシリをしており、その手にストール用の布を持って飛び込んできた。
この一年生は錬金術志望なため、自分から錬金術工房との渡し役をかってでている。目当ては葉山副部長や白井先輩の作業の見学だけど。
一応総合監督は河中部長なんだけど、彼女は私に向かって布を差し出してきた。私は河中部長を見る。部長は苦笑しながら一年生に指示を出した。
「じゃあ縫製班へ渡してくれるかな」
「あ、はい」
返事をすると隣接する裁縫室へ駆けていく。私もその後を追った。
通常ダンジョン素材の縫合も、
けれどコモン素材の布を縫う際、レア素材の針と糸を使えば多少時間はかかるもののスキルなしでも縫える事が数年前に判明している。
なぜ今までわからなかったのか。
縫えるといってもダンジョン内に限ってだし、多少のレベルアップをしている探索者にしかできなかったから。
日本ではまだダンジョンの個人所有が認められていないから、生産職が全ての工程をダンジョン内で行うことは難しい。大抵はダンジョン外での作業がメインだから。
探索者免許を持たない、ダンジョンでレベルアップをした事がない人間には加工ができるはずもなく、できないものと思われてきた。
ダンジョン外で加工ができるのはスキル持ちだけだったから。
海外でもあえてスキルなしに作業をさせることはなかったようだし。
けれど迷高専は違う。探索者志望の生徒はそんなことに挑戦しないが、生産職志望の生徒は、一年生のうちからちょっとでも作業に関わりたがる。
すでに卒業した先輩だけど、スキルのない時からなんとか制作に携わろうとして、そしてそれが出来た。
以降スキルがなくともサポートコース生産関係志望のものは、制作に関わるようになった。
探索科の鹿納君から、コートの作成という依頼を受けたのは二年の佐々木月子だった。
彼女が同じく二年の親友でありクラブ員の敷島柊子に相談したことが、佐々木本人の手から事がクラブ全体で請け負う形に広がってしまった。
「あの子に感謝しかないわね」
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琳太は学生の頃、長期休暇にタオル工場でバイトをした経験があります。
地元泉佐野はタオルの町ですから。
当時はシャトルを使った有杼織機メインで無杼は数十台もある中で二台くらいしかなかったけど、今は無杼なのかな?
糸が切れないように噴霧器で水撒きしてるので、夏は地獄でした。
あと埃で鼻の穴がすごいことに……
仕事終わりにエアブラシで全身払ってました。
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