第163話 永岡天満宮ダンジョン2日目②

 昼食を終え、十八階層に戻る。今日は十八階層と十九階層を探索し、二十階層のゲートキーパーを倒して終わる予定だ。

 十六時にはダンジョンを出るつもりでいるので、十八階層は廊下へ出られれば終えるつもりだ。

 転移先は廊下ではなく、休憩前の続きから探索を再開するつもりで〈マーキング〉しておいた部屋に転移した。部屋に戻ってすぐ〈サーチ〉をするが、グリーンダットポールは復活? 再度飛び込んでくることはなかったが、近くに探索者の反応があった。


 ここも下の階層と同じく、〈マップ〉で隣接しているからといって、出入り口がつながっているわけじゃあない。部屋によっては御簾が上げられているところがあり、そういうところはつながっている。縁側と同じ感じかな。


 今他の探索者がいる廊下とは板戸があるが、そこを開けても廊下には出られない。しばらく探っていると、登り階段を目指すのではなく、板戸を開けて部屋の中に入っていったため、サーチ範囲から消えた。


 この階層を探索するのか。どこで鉢合わせるかわからないな。


「タマポチ、他の探索者がいるからしばらく隠れてくれ」

「わかりましたにゃ」

「承知しましたワン」


 俺の影に消えるタマポチ。これ二匹同じ空間じゃなくって別々なんだそうだ。

 一緒だと喧嘩するだろうからよかったよ。


 一人になって探索を再開する。襖を開け隣に移動すると、そこは一方の御簾が上げられており、廊下の向こうは水面に面した部屋だった。

 水面からモンスターが飛び込んでくるだろうから、狼刀を構える。


 飛び込んできたのはグリーンダットポールではなく、キラキラ光る巨大な魚だった。


【エピック・鏡鯉ミラーカープ】【魔石40%・素材20%・アイテム20%・なし20%】


 鱗に光がやけに反射すると思ったら、名前に鏡がついている鯉だった。

 真っ直ぐ突っ込んでくるミラーカープを避ける。

 畳の上に落ちたところを斬り伏せようと振り返ると、ミラーカープは高度を保ったまま、壁にぶつかることなく回遊した。


「なんで飛んでるんだよ。鯉だろう」


 方向転換したミラーカープがまた真っ直ぐ突っ込んでくるが、背後から水飛沫の上がる音がした。

 横に避けるのではなく、しゃがみ込むと俺の頭上を二匹のミラーカープが交差する。

 壁にぶつからないように回遊するミラーカープめがけ、魔法を放つ。


「〈ファイヤーバレット〉」


 水棲モンスターに火属性は効きにくいが、牽制にはなる。

 さらに水飛沫の中から新たなミラーカーブが現れる。


「〈ストーンウォール〉」


 背後に石壁を出すと三匹目がツッコんできてぶつかった。落ちた三匹目を掠めるように二匹目が水鉄砲のような攻撃を放ってきた。


水流噴射ウォータージェット》という水魔法だと思われるそれは、石壁に穴を穿つ。


 石壁から一気に《ファイヤーバレット》を当てたミラーカーブへ駆け寄り、狼刀を振り下ろす。

 けれど狼刀は半ばで止まる。

 鯉といっても大きさは1メートル以上あるマグロのようなサイズだ。だがこれくらいの太さなら切れると思った。


「やっぱりエピックモンスター相手だと威力不足か」


 狼刀から手を離し咄嗟に後方へ飛び退ると、《ウォータージェット》が髪を数本切り飛ばした。

 倉庫からダブルファングを取り出し、突っ込んできたミラーカープをすれ違いざま切り付ける。


 今度はスッと刃が通り、ミラーカープは二枚下ろしになって、狼刀がささったまんまのミラーカープにぶつかった。

 半ばまで食い込んでいた狼刀が弾き飛ばされ、少し離れた鴨居にガツっと刺さった。


 半場まで切り裂かれたせいで、うまく飛び上がれないミラーカープは、ビッタンビッタンと板の間の上をはねる。

 ダブルファングで頭を切り落とすと、ミラーカープは粒子に変わっていく。


 残りの一匹はと振り返ると、石壁はいつの間にか粉々になっており粒子へと変わっていく。けれどまだ残っている欠片がごとごとと鈍い動きを見せていた。


「モンスターのフレンドリーファイヤか。いやミラーカープは仲間ってわけじゃあないのかな」


 狼系モンスターのように連携を組むモンスターもいるけど、ここのミラーカープは違うようだ。


「〈ラッシュ〉」


 ダブルファングは石塊ごとミラーカープを切り刻み、黒い粒子に変えた。もう現れないかと、水面の方を向いた時だった。


「おっと、先客だ」


 俺が通ってきた襖とは別の襖が開けられ、探索者が中に入ってきた。

 二十代後半から三十代前半くらいの三人組の男の探索者だった。


 その時、水面から二匹のミラーカープが飛び出してきて、一匹は俺に、もう一匹は三人組に向かって飛んできた。

 俺はぶつかる直前で身体をずらし、ダブルファングの二連撃をお見舞いする。切り身になって落ちたミラーカープは床を滑りながら壁に当たって止まる。


「よっしゃ、いただき!」


 三人組の中から、ナックルをつけた男が飛び出しミラーカープにコンビネーションの三連パンチを食らわした。

 見事に命中するも致命傷にはなっておらず、一旦後にひきファイティングポーズで構える。


「いや、俺がもらう」


 横から両手もちのバスタードソードを構えた男が、ミラーカープを床に叩きつけるように一撃をお見舞いする。

 くの字に曲がったミラーカープは、ピクピクと痙攣しつつ黒い粒子に変わっていった。

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