第164話 永岡天満宮ダンジョン2日目③


「コラ! おまえら、待たんかい!」


 少し遅れて大荷物を背負った30代の男性が入ってきた。なんとなく見覚えがあるような?

 でも探索者に知り合いはいない。どこかですれ違いでもしたのかも。


「先客がおるときは手ー出したらあかんとゆーとろーが!l


 言いながら、ドロップの魔石を拾っていた拳闘士スタイルの探索者の頭をこついた。


「お前もじゃ、虎仁郎コジロウ…て、何しとる」

「なーなー、あんちゃんこれ刀やで、見て見て!」


 虎侍郎と呼ばれたのは大剣を装備していた方の男だった。見ると鴨居に突き刺さっていた狼刀を引っこ抜き、構えようとしていた。

 慌ててブラックファングを倉庫に収納し、狼刀を取り戻そうとしたが……


「うお、重っ」

「それは俺の「ドアホ、人様の武器勝手に触んな」……武器」


 俺が手を伸ばす前にあんちゃんと呼ばれた男が、虎仁郎とやらの頭にゲンコツをお見舞いし、武器をその手からもぎ取った。


「お、重いな。すまん、こいつらまだ免許とりたてのど素人で、今絶賛教育しつけ中でなあ、悪気はないんや許したって」


 そう言いながら狼刀を持ち替え、柄の方を差し出してきた。

 受け取った狼刀を背中の鞘に戻そうとして……戻せないんだよな。佐々木はかっこよさ優先というか、多分某アニメ主人公の影響と思われる刀の背中装備。


 抜くときは《抜刀》スキルがあるから抜けるのだが、納刀は見えないし鞘口の位置がわからないのでできないんだよ。


 だからいちいち鞘を剣帯から外さないとダメなのだ。

 これなしだな。河中部長に頼んで腰に差せるタイプにしてもらおう。


「コジ、お前も荷物もてや。ほれ、これあんたの倒したやつのドロップ」


 刀を受け取っていると、横から龍弌と呼ばれた拳闘士スタイルの方が、俺が先に倒したミラーカープのドロップを回収して手渡してきた。魔石とミラーカープの鱗、そしてスクロールの三つ。


龍弌リュウイチ、お前も人のドロップに触ったらあかんて、いうたやろが」

「ネコババなんかせーへんわ」

「マナーの問題やちゅうてんねん」


 こっちもその探索者らしからぬ行動に、あんちゃんの方は頭痛がするとでもいいたげにこめかみを揉んでいた。


「ほんま申し訳ない。ボクシングと剣術やってたからそこそこ戦えるんやけど、なんせ探索者になりたてで、マナーというかその辺も勉強中でな」


 あんちゃんは申し訳なさそうにして、二人の頭を押さえて下げさせる。


「そんなこというたかて、探索者になるつもりなかったし」

「今年インハイ最後やったのになあ」


 我が道を行くタイプの二人を扱いあぐねているのか〝あんちゃん〟は苦労してるようだ。


「なあなあ、その刀ドロップ武器? 永岡ここで手に入るん?」


 虎仁郎が押さえられた頭をこっちに向けて、興味津々で聞いてきた。全然悪びれないその行動に、ちょっと物理的に一歩引いてしまった。

 こういう前のめりな感じは俺の周りにはいな……ひながいたな。だけど身内はノーカウントだ。

 あれ、松本もそのタイプか?


「え、いや学校の先輩に作ってもらった……」


 そんなことを考えていたせいか、馬鹿正直に答えてしまった。

 ここ永岡ダンジョンでドロップしたわけじゃあないので、そこは伝えておいたほうがいいし、問題ないだろう。


「ああ、どこかで見た覚えのある武器と思ったら、それ粟島が作ってたやつ……て、君六期生の、あー確か三年の加納くんか?」

「「「え?」」」


唐突に名前と学年を告げられたことに、俺と虎仁郎、龍弌が三人揃ってあんちゃんを振り返った。


「あんちゃん、知り合いか」

「いや知り合いっていうか、直接面識はないけど」


 警戒する俺を見てあんちゃんは自己紹介をした。


「俺は伊吹禅イブキゼン、大三校の教官をしてる。今年は四年の担当でナビ部屋におることが多い。君の担当にはまだ当たったことはないけど、ナビ部屋で君は有名やから」


 うちの教官が、なんで永岡に?


「え、俺と同い年? 俺は風間龍弌、高三」

「俺らとタメなん 風間虎仁郎、俺ら顔似てない二卵性の双子やねん」


 教官に続いて二人も自己紹介をする。

 あんちゃんが教官だったってことにも驚いたが、何よりも二人が同級生だということに驚いた。


「……鹿納大和、迷高専三年……」


 自分も自己紹介しながら、二人の顔を見る。


「今、俺らのこと老け顔やと思ったやろ」

「龍兄、眉毛薄いのに坊主頭にするから、おっさんに見えるんじゃ。あ、こっちの老け顔が俺より十二分先に生まれた兄貴な」

「何抜かす、コジはその歳でその髭やからおっさん扱いされてもしゃーないけど、俺はちゃうわ。お袋に頭刈られてもうたんじゃ」

「髭は朝剃ったのに、すぐはえるんじゃ。しゃあないやんけ」


 どっちがより老け顔か言い争いを始める二人。

 いやまじで二十歳超えてると思った。


「お前ら、ダンジョンきてまで喧嘩するんやったらもう連れてこんぞ」

「「サーセン」」


 伊吹教官に叱られて、揃って頭を下げる兄弟。


「ほんと、騒がしくて申し訳ない。ほら、二人とも次に行くぞ」

「あ、あんちゃん刀のこと」

「よっしゃあ、次は俺がトドメさすで」


 龍弌を先頭に、伊吹教官が虎侍郎を引きずりながら俺が入ってきた方の扉を開けて出て行った。


「……なんか、騒がしいというか。驚きというか」


 一人残った俺は、ハッとして手の中の荷物を片付ける。








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関西弁について、ちょっと近況ノートに書きました。

追記:〝仮免は制覇済みダンジョンしか入れない〟という設定を忘れていたことを指摘していただき、二人を双子設定に変更しました。

誤字や設定齟齬のご指摘ありがとうございます。

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