第165話 三人組
伊吹禅は歳の離れた姉の双子の
探索者になってからずっと組んでいたパーティーメンバーの一人である
残りのメンバー二人、禅と
けれどその怪我を負った士郎本人は、療養を終えたのち探索者を引退し、「自分も教官になる」と言い出した。
結局、三人は教官を続けながら休日に探索をする兼業探索者という形で今に至っている。
「あんちゃん、俺刀のこと聞きたかったのに」
移動した先の部屋は、鹿納が通ってきたばかりのようで、しばらく待ってみたがモンスターは出てこなかった。
「わざわざ聞かんでも知ってる。〝学校の先輩に作ってもらった〟っていうとったやろ。お前らの今持ってるやつと同じ、サポートコース技術学部鍛冶専攻の四年生が作った武器や」
言われて虎仁郎は自分の大剣と、龍弌は両手のナックルダスターを見た。
「刀があるなら、俺そっちが良かったのに」
「あれは素材持ち込みで特注した武器、お前らのはタダで貸してもらった試作品。実戦に通用する刀を作れるのは今のところ四年生の粟島だけで、在庫はなかったんや」
粟嶋は四年と五年の探索者育成コースの生徒から、受注生産という形をとっている。
四年生になると学校以外のダンジョン探索ができるので、ドロップ素材は個人所有になり学校への提出義務はない。
ほぼ換金するが中には素材を持ち帰り、鍛冶や細工専攻の生徒に装備を作ってもらうことがある。
サポートコースの生徒も自分の練習になるので、素材代のみで請負っている。
今回禅が借り受けたのはエピック素材を用いた試作品の武器だ。
生徒ではなく、鍛冶科の教師に頼んで借り受けたもので、倒したモンスターの種類や数をレポートとして提出する約束になっている。
「俺じゃなくって、甥っ子に使わせてるんだけどな」
二人は探索者としては迷高線の二年生ほどもレベルアップしていない。新一年生とどっこいどっこいだろう。
だが、素の戦闘能力では俺よりも上だ。
義兄さんが格闘漫画好きで、そのせいで二人の名前は実はどこかの登場キャラクターの名前らしい。
自身は野球をやっていたそうだが、本当は格闘技がやりたかったのかと尋ねたことがあるが、そういうわけではなかったらしい。
二人には子供の頃から色々な格闘技を経験させてきた。
虎仁郎は剣術と剣道をガキの頃から習ってそこそこ強い。去年は高校の剣道大会でいいところまで行っていた。
禅は虎仁郎が武器として刀を欲しがるだろうと分かっていたが、なかなか手に入れられるものではない。
龍弌は小学生の頃は空手を習っていたが、中学からボクシングに転向し、インハイに出るくらいは強く、高校を卒業する前にプロデビューしないかという話が出ていたくらいだ。
「それがなんで、協会未報告のダンジョンに入るんだよ。あほ通り越してるわ」
今ではオリンピックや公式試合への探索者の参加は禁止されている。
ダンジョン外では十分の一とはいえ、多少なりともレベルアップした身体能力はドーピングと同様に扱われる。
春休み中に近所にダンジョンが出現したときき、興味本位で中に入った二人。
帰ってこない双子を心配した禅の姉、二人の母親が警察に捜索願いを出す前に、調査に入ったJDDS職員に発見され、捕獲された。
補導と言っていいのか?
本人たちは見つかる前に出て来るつもりだったらしい。
二人は持ち前の戦闘能力で、怪我を負うこともなかったが、ダンジョンに入ったことが地元新聞にも載り、公式試合に出られなくなったのだ。
当然龍弌のプロの話も流れた。
学校の部活は参加できても試合に出られない二人は、腐ってしまい手に負えないと禅の姉は禅に助けを求めてきた。
六月になり誕生日を迎えて十八歳になった二人に免許を取らせて、ダンジョンに連れてきて鬱憤バラシをさせるつもりでここ永岡に来た三人だった。
「ったく、なまじ基礎戦闘能力が高いやつって。俺が十八階層のエピックモンスターを倒せるようになったの、探索者になって三年目以降だったぞ」
ため息混じりに前をいく二人を見る。
「あんちゃん、また魚だ」
「コジ、いくぜ」
「あ、こら、待たんかい」
先行する甥っ子二人を、禅は慌てて追いかけた。
探索者志望ではなかった二人は、探索者としての基礎知識がなく、迷高専の学生の指導よりもずっと疲れる。
なまじ親戚で遠慮がない分、手綱が握れない。
「ちょっと帰ったら姉さんに、ガツンと一発入れてもらうか」
老け顔の二人だが、ああ見えて母親には弱いのだ。
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ご指摘を受け、〝仮免は制覇済みダンジョンにしか入れない〟という設定を忘れてしまっておりました。
なので龍弌と虎侍郎は双子ということにします。
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