第19話 五階層

 

 五階層の階段を降りると、すぐそこにそそり立つ大きな石の扉。それをを前に準備を整える。

 このダンジョンはボス階にはボス部屋しかないタイプだ。

 そしてこのタイプはボスを倒さなければ先に進めない。

 扉を開けたら荷物はすぐに端っこに置く。この扉はすぐには閉まらないが、一度しまってしまうと中からは開けられない。閉まらない様に噛ませを置く方法もあるが、かなり頑丈なものでないと押し潰される。

 俺はそんなものは持ってないので、今回はボス討伐を目指すか、倒せそうにないと思ったら早々に撤退することになる。

 今回は右手に刺身包丁、左手に鉈の二刀流だ。


「ふう」


 大きく息を吐き呼吸を整える。そして扉に手を触れると、大きな石の扉はゴゴゴと内側に開いてゆく。

 完全に開き切る前に中に入ると、リュックを放り投げ、両手に武器を構えゆっくり前に進む。


 ここがボス部屋か、中ボス部屋かは倒してみないとわからない。

 でも五階までって今まで報告されている中で世界中で三件しかないから、そんな低確率ひきたくないな。


「ライト」


 薄暗い空間に灯りを灯す。

 ドーム型の広い空間の真ん中にいたのは────


 全長二メートルのカンガルーがこちらを睨んでいた。

 カンガルーってもっと大きいと思うが、モンスターだし小型なのか? あまりポピュラーなタイプではないので見ただけでは種族がわからん。


 跳躍力で相手を翻弄し、隙を見てキックで攻撃してくる格闘タイプだ。


 俺はカンガルーモンスターの攻撃を交わしつつ、すれ違いざま武器を振る。

 最初はかするぐらいだったが、三度目のキックをギリギリで交わし、俺の鉈は尻尾を切り落とした。

 尾を失ったことで体のバランスが保てなくなったカンガルーモンスターへ、こちらから突っ込んでいく。


 勢いをのせた刺身包丁は、カンガルーモンスターの首を半分まで切り裂いた。


「キュピーーーー」


 叫びながら跳びのこうとしたカンガルーモンスターは、コントロールを失い自ら床に激突してズザザーっと地面を滑っていく。


 様子を伺っているとしばらくビクンビクンと痙攣して、そして黒い粒子に変わっていった。


「よし!」


 若干自滅ではあるが、倒したことに変わりはない。


 そして入り口の扉と反対側の石の扉がゴゴゴと音を立てて開いていく。

 その向こうは下り階段の様だ。ということはこのカンガルーモンスターは中ボスだったってことだ。

 入り口の扉は中ボスが復活するまで開いたままになる。


「あ、ドロップ」


 毛皮かな? もふっとしたものが落ちていたので広げてみるが、その皮はA5サイズより少し大きいくらいの楕円というか半円形?


「中ボスのドロップにしては小さすぎだろ」


 鑑定をかけるか。


=【エピック・アイテム】《ジャンピングワラビーの腹袋》=


 カンガルーじゃなくてジャンピングワラビーだったか。

 全長二メートルのカンガルーだろう! どう見ても! 違いがわからねえよ。



 ワラビーって有袋類……あっ。

 近似のマジックアイテムのことを思い出して、俺はジャンピングワラビーの腹袋を腹部に当てる。するとピタッとくっついた。

 恐る恐る上部を引っ張って中を覗くと、真っ暗で何も見えない。

 そしてそっと中に鉈を入れる。

 サイズ的に鉈は全部入らないが、手を離すとそのままズブズブと沈んでいった。だが重みは感じない。

 中を覗くも真っ暗で鉈は見えない。


「これ、マジックバッグだ!」


 ドロップ品アイテムに〝ファイトカンガルーの腹袋〟というのがある。

 オークションで数千万で競り落とされていたのだ。

 身体のどこかに貼り付けないと使えないタイプのマジックバッグ。肌に直接ではなく服や装備の上からでもいい。

 剥がすと中身は全部ぶちまける、というか取り出すときは剥がさないといけないので、入れたものを個別に取り出すことができないのだ。使い方に工夫がいるが、戦闘時荷物を放り出さなくて済む。


 ファイトカンガルーの腹袋で容量は200L、キャンプ用のでっかいバックパック二つ分。

 それよりは多分少ないとは思うけど、これでドロップ品の回収が楽になるぜ!。


 早速回収したバックパックを放り込む。


 ……


「おう、口よりデカイのは入らねえ」




┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼

拙作に初めて★と♡いただきました。ありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る