第74話 刀鍛冶
女子で鍛冶専攻とは珍しいが、父親がスキル持ちの鍛冶師で同じ仕事をしたいと迷高専を受験したそうだ。
そして父親に「武器を造るにはその武器を知ることが大事だ。一通りの武器を使えるようになれ」と言われたせいで、学期ごとに違う武器術を選んでいるそうだ。
「自分は刀しか造れへんくせに、ウチにはそー言うんやで。あの頑固親父」
父親は元探索者で、今は協会所属ではなく個人で工房を持つ鍛治師をしているそうだ。
十五年前に
「え、刀鍛冶の正村って……」
「うん、まあそこそこ、いやかなり有名やな。数少ない刀型の武器を造れる人やさかい」
数少ないというレベルでは無い。
本物の日本刀ではなく、ダンジョン武器の日本刀型を造れる刀鍛冶スキル保持者は現在日本で、いや世界中で三人しかいない。
それは
他国でも
「名前が村正とは逆やけど、よーまちがわれるねんで」
〝刀鍛冶師の正村〟といえば日本人探索者で知らないものはいないほど有名だ。
最初期の登録探索者で元Aランク。まだ伸び代のある三十代前半で早期引退し、随分惜しまれたが一年もしないうちに鍛治師として刀型ダンジョンウエポンを造り売り出した。
そしてその後刀鍛冶のスクロールが協会に持ち込まれたことで刀鍛冶スキルの存在が公なり、実は刀鍛冶スキルを持っているという二人目の保持者も現れた。
彼は鍛冶に興味がなかったのだが、自分の持つスキルがゴッド級であったと知り、名乗り出たそうだ。
当時スキル保有数上限が知られていなかったこともあり、ドロップしたスキルはすぐに使うことが多く、レアだろうがゴッドだろうが分からずに使用していたケースが多いのだ。
そんな有名人の娘が同学年にいるという噂は聞かないが。
「あー、あれやね。学校では〝昌邑〟って漢字つこーとるよって、教師かて一部しか知らんねん」
彼女は自分も刀鍛冶になりたいのだが、流石にそれはむりなのでせめて剣鍛冶を目指したいのだが、スクロールは
て言うかもう
「ウチやのうて親父がな。無事三年度課程を終了したらくれる約束やねん。無事終えるには座学がネックやねんけどなあ」
打ち込み合いをしながらも会話を続ける彼女は、そこそこレベルがありそうで、探索科でも十分通用しそうに思う。
「探索も楽しいんやけど、三年度になってようやく工房の出入りが許可されて放課後入り浸りやねん」
技術学部は三年度になって各工房に制限なく出入りできる。二年度生までは〝部活〟扱いで五時までと決められていた。
彼女のいう〝入びたり〟とは午後の授業からそのまま終校時間までいられるということだ。
「誰か勉強教えてくれへんかなぁ」
なんとなく彼女が俺に打ち明け話をした理由に察しがついた。
一時間目は八時四十分から十時十分までの九十分授業で、十分の休憩時間を挟んで二時間目は十一時五十分までだ。
「ウチ二限は戦斧術やねん。ほなまた〜」
そう言って正村は去っていった。俺のほうは体術なので鍛錬場の別の場所に移動になる。
ここでの体術は素手での戦闘術になるのだが、二年度までは必須で三年度から選択になったことで生徒数は少ない。実は人気がないのだ。
俺はわりと好きなんだが、身体運びとか足捌きとか勉強になる。ダンジョンで本当に素手で闘う羽目にならないとも限らない。なんせエレホーンソードが弾き飛ばされたり鉈が折れたりと実体験があるもんな。
人気がないのはひたすら体幹作りのトレーニングを課せられるからだけど。
迷高生のほとんどが「レベルが上がれば身体能力が上がるから、トレーニングはそこまで必要ないんじゃね?」と言うのだが、たんにトレーニングがキツいだけだな。
そうやって午前の授業が終わり、午後は机に座って座学となるが、睡魔との戦いになるのだ。
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
技術学部の部活時間に制限があるのは、指導員が少ないため四、五年度生に時間を割くため、という設定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます