第80話 授業を終えて
水曜の放課後に生狛ダンジョンの十四階層の探索を行ったが、二時間弱では下り階段を見つけることはできなかった。
金曜の午後の授業は実戦戦闘考察授業で、ダンジョン外施設の講堂へ移動だ。
あいつらと関わりたくないので《気配隠蔽》を使いたいところだが、ダンジョン外施設なので魔力が枯渇し、十分と持たずに効果が切れる。
一旦枯渇すると、他のスキルも使えなくなるので諦めた。
席はクラス別で指定されているのだが、Hクラスは後列の端なので、その中でも一番端っこに座る。
授業はまずは映像の鑑賞から始まる。
指導教官がピックアップした画像をつなげただけのものだ。使われるのが今週の画像とは限らない。
それを見てよかったところ、悪かったところを解説する。〝よかった〟部分に長く使われるのは嬉しいことだが、〝悪かった〟ところに長く使われるのは恥以外の何者でもない。
ちなみにこの〝よかった〟のところに、件のソロの先輩の画像が長く使われているのだ。
多対単の攻防の見本として。
授業が終われば探索科の生徒はダンジョンに戻るものと、そのままダンジョン外施設を利用するものと帰宅する者に分かれる。
ダンジョンに戻るのは鍛錬をする探索科と、研究をする魔素学部と工房へいく技術学部だ。
ただし俺は図書室へ行くため講堂を出て施設内のエレベーターホールへ向かう。
またダンジョン情報を仕入れるためだ。新しいダンジョンが出現していないかとかも協会の端末でないと最新情報は得られないからな。
ついでにネットでダンジョンの掲示板を覗く。ダンジョン別のスレッドがあって、結構貴重な情報なども載っていたりする。
噂の域を出ないものの方が多いが。え、スマホで見ないのかって? ギガ数食うからやだよ。
「へえ、最終到達階層は十二階なのか。あの三人組はボスを周回するけど先を進める気はないのかな」
あまりめぼしい情報はなかった。最終到達階層なんて協会の入ダン受付窓口で聞けば教えてくれるだろうし。
カチカチとマウスをクリックして、新しいダンジョンの情報や消失推奨ダンジョンの情報を見る。
「ちょっと遠いな。来週のゴールデンウィークに連泊で行くか……」
若山の知良浜なら温泉もあるし、ついでにゆっくりと風呂にでも入ってくるか。
割と大きめのダンジョン近くに出来たダンジョンは、消失推奨になっていることが多い。貴重なドロップ品が出たり、鉱石類や植物が取れる様なダンジョンは別だけどな。
情報やら地図をプリントアウトして、PCの使用を終了する。
「あ、鹿納くん?」
名を呼ばれて振り返ると、両手で分厚い本を抱えた新井志乃が立っていた。
「えっと、新井さん」
「はい、鹿納君も自主学習ですか」
「いや、俺はダンジョンの資料検索しに来ただけ。というか新井さんは試験前でもないのに?」
少しはに噛むような笑みを口元に浮かべてから、分厚い参考書を掲げて見せる。
「こういう本は買うには高いですから。それに医学部や薬学部は試験前だけの勉強じゃ間に合いませんし」
この二学部は土曜日の特別講習がダンジョン外施設の方であるらしい。普通の医者や薬剤師と違うと言ってもそれに近い勉強がいるのだ。一般の高校の教科とダンジョン学に加え、そっちの専門学習をするには六年は短いのだ。
大学で学ぶ四年分からは若干レベルを落としているとはいえ、医学知識を詰め込むんだから。
「そっか、大変だなサポート科も。頑張って」
「はい、鹿納君も頑張ってください」
プリントの終わった紙を揃えてクリアファイルに入れつつ、新井さんの後ろ姿を見送る。
来年度からは五校のカリキュラムが若干変更になる。というか現在五校にそれぞれあるサポート科を、一箇所に集めてそれぞれに振り分けるそうだ。
東京に医学と薬学、北海道に鍛治と金属細工、大阪に魔素学という感じだ。
それぞれの講師を一か所に集めて集中して指導するのだそうだ。
まあ、一校に十人しかいない医学とか薬学部の授業のために、講師が教科数の五倍必要になるんだから、全部集めて一か所でやれば講師は少なくてすむもんな。
俺には関係ない話だけど。
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医学部は六年ですが大和は知りません。大学なので四年と思っているだけです。
医術師は医者ではないので国家試験もありませんし、外科治療を行うこともできません。医術師の中には医師免許を持っている人もいます。
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