第126話 知良浜ダンジョン2日目①

 

 十四階層の階段前の安全地帯では五人パーティーが食事中のようで、少し騒がしかった。

 他にも三人パーティーが1組いたが、彼らはこれから出発するようで野営の荷物を片付けにかかっていた。


 知良浜ダンジョンには昼夜の区別がない。

 昼間のフロアは二十四時間昼間なのだ。ダンジョン外の時間とリンクしてるようなダンジョンもあるが、ここは昼夜固定型なので長く潜っていると休む時間がずれていくことはよくある。

 俺は1日目なので生活リズムはまだ狂ってない。

 ナースウォッチを見れば21時を回ったところだった。普段なら寝るには早い時間だが、朝の九時から探索を始めたのだから、それなりに疲れている。

 寝る前に花粉団子食べた方が起きた時スッキリするかも。またドロップしたらそうしよう。


 三人組が立ち去るのを待って、空いた場所に陣取ることにした。

 ホームセンターで三千円で売っていたポップアップテントは、テントというより日除け用だ。

 階段まえの安全地帯では雨風は関係ないので、壁面に向かって設置することで他の探索者からの目隠しになる。


 向こうの五人パーティーのように、他人の目を気にしない連中は持ち込まないようだけどな。


 俺は早々にテントの潜り込んで眠ることにした。

 ちょっとうるさくって迷惑だなと思ったが、ケットにくるまるとすぐに眠りに落ちた。




『……ター、人間が近づいてきますワン』


 ポチの念話による知らせにハッと目を覚ますと、テントの中に手を伸ばす男の姿が目に入った。


「何かようですか?」

「!」


 俺がぐっすり眠り込んでいると思ったのだろう。男は俺の予備バッグに手を伸ばしたまま固まった。


「い、いや何かうなされてたみたい、だったから、ちょっと気になってね」


 そう言いながら目を泳がす男は、五人パーティーのうちの一人のようだ。

 俺は起き上がってくるまっていたケットをたたみだす。


「そうですか、夢はみてなかったんですが」

「いや、なんともないならいいんだ、じゃあ」


 そう言ってそそくさと男は去っていった。


「はあ」


 ソロだとこういう目にあう話はよく聞く。

 寝ている間に装備やドロップ品を盗まれるのだ。ドロップ品に目印をつける奴もいるそうだが、傷をつけると買取価格が下がるからな。


 流石に日本では殺してまで奪い取るというのはが、ないわけではない。

 しかし知良浜ダンジョンの十階層前後でのドロップ品の売却価格は、殺人を犯してまで手にする価値はない。

 あ、エレホーンソードはそこそこ価値があるかも。


 時計を見れば四時前だった。六時間は眠っていたようなので疲れは取れている。ケットを片付けてペットボトルのお茶とコンビニのサンドイッチを《倉庫》から取り出した。

 朝食を頬張りながらテントを片付ける。ちらりと横目で見るとパーティーメンバーは二人以外は寝ているようだ。その二人がちらりちらりとこっちを見ているが、気づかれないとでも思っているのだろうか。

 あの二人の単独行動、二人だから単独とは言わないか。


 さっさと荷物を片付けて十四階層へと移動した。そしてしばらく進んでからマイボス部屋へと転移する。






「まあこういうこともあるのは知ってたが」


 フカフカのポチとタマをもふりながら、感謝を示す。


「ポチもたまもありがとな」

「マスターをお守りするのは我輩のつとめですワン」

「お休みはここでした方がいいですにゃ」


 タマの言う通りなんだよ。

 一応休んでいるところを見せつけるための偽装というかなんというか。

 そのために他の探索者がいないところで休むと意味がないのだが。


「だよなあ、もう気にせず休憩はこっちで取ろうかな」


 マーキングができるようになったので、階段前か入り口じゃなくても転移できるようになったし、もう気にせずやるか。何か調べられるようなことをしでかしてるわけじゃないしな。


 少しマイボス部屋で休憩してから十四階層に戻って2日めの探索を開始した。

 まあすぐ十五階層についたんだが。


 十五階層のボス部屋前には五菱と山﨑のテントしかなかった。この二社のテントも浅層よりは縮小されていて、ここで休憩を取ることもできたなと今更知った。


 ボス部屋の扉は空いている。こういう企業が出張ってるダンジョンでボス戦は無理だな。

 まあ十五階層の中ボスは難易度9のエピックモンスターのキラーアントクイーンらしい。

 今の俺では歯が立たないだろう。いやダブルファングを使えばキラーアントクイーン単体なら倒せるだろうが、キラーアントクイーンは手下のキラーアントを召喚する。タマとポチがいれば問題なくクリアできるけど最初から頼るのはちょっと。


「すみません。ボスのリポップタイムってわかりますか?」


 俺は五菱のテントでコーヒーを飲んでいた探索者に声を掛ける。


「んん、あああと一時間でリポップするが、挑戦したいのか」


 まさかという感じで、両手を振って見せる。


「いえ、帰りに扉が閉まってたら困るんで」

「はっは、そりゃそうだな。君の装備はうちのリザードベストか。それだと十六階層以降は厳しくなるぞ」


 五菱の探索者が俺の装備を見回してそう言った。

 十六階層以降は熱帯雨林の森というかジャングルっぽいフィールドになる。



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 コソ泥はどこにでもいるのですよ。そして落とし物を隠匿する人間の多いこと多いこと。



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