第125話 知良浜ダンジョン1日目⑤


 たくさんのお悔やみの言葉ありがとうございました。

┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼



 十五階層のボス部屋前はどうせ企業のキャンプがあるだろうから、俺は十四階層の階段前でキャンプをするつもりでいる。

 その前にマイボス部屋に戻ってゆっくり休憩するけどな。


 トイレと夕食を済ませた後に、ドロップ品を整理する。

 隈なく探索したわけではないので、トレジャーボックスは一つも発見できていない。これは最初から当てにしていないので構わないのだ。


 一階層から四階層では魔石以外は皮がオニネズミ、ブラックミーアキャット、リトルフォックスが各一枚。リトルフォックスの尾1本とスピンスワローの風切り羽1枚。


 六階層から九階層では魔石以外はジャンピングスパイダーの糸束と跳蜘蛛布が1個づつ、ニードルビーは針と牙と花粉団子が1個づつ。


 この花粉団子は一応食べ物の扱いだが、どちらかといえば薬というかポーション的な効果があった。


=【コモン・可食部】《ニードルビーの花粉団子》花粉団子。摂取することで体力を回復(小)=


 可食部にありがちな摩訶不思議な容器、葉っぱに包まれている。これも包みを開けると消えるのだ。

 試しに食べてみたがなんというかちょっと苦味のある蜂蜜味だった。

 体力回復効果は(小)なのでちょっと疲れが取れる程度かな。


 他はバークスネークとフォレストリンクスの皮が一枚づつ。ブラックポーキュパインの針が一つだ。


 十一階層から十四階層では午後いっぱいを使ってそこそこモンスターを倒したので、魔石以外のドロップも多い。


 ミラージュリカオンからは皮一枚とミドルヒールポーション一本。

 リザードは皮一枚。

 ロバーホークからは爪1個。

 ロックキャタピラーからは糸束1個と錦糸線1個。錦糸線からは糸が紡げるらしいが、糸束があるのにどっちかでいいんじゃないかとも思う。そして《織工》のスクロール。

 織工しょっこうって機織りのことだよな。ロックキャタピラーは岩っぽい見た目で糸関係のドロップが多いのか。


 そしてマッチョゴーレムからは《治療Ⅰ》のスクロールだ。


 有益なスクロールが手に入ったからといって、全部自分で習得しても使いこなせるかどうかが問題になる。

 俺はあくまでも探索者だ。戦闘に役立つスキルであれば習得したいし、探索の中でスキルの練度も上げることができる。


《治療》は有益ではあるが、そのために人体の構造とか病気の原因とか症状とか覚えるのは大変だ。だが探索中に負傷する可能性を考えたら、欲しいスキルではある。


 刀造りを粟嶋先輩にお願いしたように、そこは専門に任せるのが一番だと思う。

 でも今治療スキル持ちや治療師のジョブスキル持ちはほとんど探索にはいかない。治療スキル持ちや治療師のジョブスキル持ちを一般探索者として探索に連れ出すことは歓迎されないのだ。よって医学知識のあるものをパーティーメンバーに迎えてスクロールを渡すという手も取りにくい。

 そもそもパーティー組んでなくてソロだしな。


 今俺が正当な手順でスキル持ちの治療を受けようとしたら、かなりの順番待ちとか莫大な費用がかかる。

 そこを優先して受けられるようにするには探索者ランクを上げて、協会にコネを作るか協会所属もしくは嘱託探索者になることだ。


 でも俺はそんなつもりはない。ダンジョンマスターであることや、未だ知られていないそれらの情報を当分公にするつもりはないからだ。


 では他に方法はないかといえば、一応ある。


 自分のクランを設立して、専門職のクランメンバーを集めることだ。

 大手のクランや企業は《治療師》を抱え込んでいたりするのだ。


 クランを作って自分のダンジョンを利用すれば、安定して稼げるだろう。

 治療師だけじゃなく、武器や防具も作れて。ああ、いいなあ。そんなふうにできれば。

 信頼できる仲間……そんなのボッチの俺にはいない……こともないか?

 いやまだ知り合って一〜二週間だし、どんな奴らかもわからない上、一癖も二癖もあるような人物ばかりだ。

 俺を裏切らないという保証はない。


「マスター。そういうのはマスターランクが上がれば解決できますにゃ」

「え、俺声に出してた?」


 考え事をしているつもりが、声に出していたようでタマが応答してきた。


「ダンジョンマスターのスキルに契約ギアスのスキルがありますワン」


 それは本来はネームドとなり自我を持ったモンスターをダンジョンボスに据えるためにあるという。


「《ギアス》で縛ることでダンジョンマスターに従うというものですワン」

「ただし、自己の命に関わる命令は拒否できますにゃ」


 それは例えば〝自殺しろ〟とか〝自分の腕を切り落とせ〟だとか自傷行為や生命を脅かすような命令には従えないということ。

 まあ抜け道はあるようだ。絶対負けそうな相手に向かっていけとか、倒すまで戦えとか無理な注文もある。


 使い方は考えなければならないが《ギアス》により「口外法度」を命じることはできるのか。

 いやそれでも信頼できない人間と一緒にやっていくなんてできないよな。


 今考えても答えは出ない。売却用の素材を仕分けて予備のバッグに詰めていき、夜営用のバックパックを背負って十四階層へ移動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る