第135話 試作品


「やあ、待ってたよ」


 鍛治棟の A二号室へ行くと粟嶋先輩が迎えてくれた。

 俺があたりを見回していると粟嶋先輩が察して、訊く前に教えてくれた。


「正村君は後半の宿泊研修に参加したから、今日は帰宅組だよ」


 探索科以外の参加者も同様に放課後の活動は中止だそうだ。


「じゃあ早速、これなんだけど」


 一本の刀型の剣を机の上に置く。


「試作品だからね、折れた竹割鉈をベースに学校から購入できる鉄と君から最初に預かったコモン星1のリトルドッグの牙と爪で作ってある」


 爺ちゃんの刺身包丁は本番用と言うことで、まだ使っていないそうだ。


「形状や重さ、バランスなんかを実際使ってみて本番に行こうかと思ってね。せっかくのレア素材を無駄にできないし」


 俺にとって初めての刀になる。使い慣れない武器でもあるから、使いながら調整したいそうだ。


「オーダーメイドでその人に合わせた武器を作るって言うのは、自分の理想とする武器を作るのとはまた違うからね」


 今までは自分が思い描く刀を造っていたが、今回は俺に合わせて造る事になる。鍛治師としてはどちらも必要な技量だ。


「学生のうちにこう言う機会に巡り会えて、僕は幸運だと思う」


 試作品ものちに素材として再利用できるから、全く無駄ではないのだ。

 ただ素材にも相性があるのだが、リトルドッグなら同じドッグモンスターなら相性が良く、レア星1のハウンドドッグの爪と牙なら問題なく使えるそうだ。


 他にもコモン星2のリトルリカオンとレア星1のミラージュリカオン、コモン星3のヘッドバットゴートの角とレア星3のスキップゴートの角とか。

 犬系や狼系もそこそこ相性はいいらしい。

 三種のうち一番星の少ないドッグから手をつけたのか。


「振って感触を見てくれる」


 新品の刀を両手で握りしめ、正眼に構える。

 前回と同様、型に沿って刀を振るう。模造刀はそこそこ重く感じたのだが、これはやけに軽く感じた。

 それだけじゃない。多分だが《戦士》のジョブスキルの効果もあるかもしれない。ヒュンヒュンヒュンと、軽い風切り音がなった。


「あー、もしかしてこの連休中かなりレベルアップしてない?」


 俺の素振りを見て粟嶋先輩が少し苦笑を浮かべた。


「そうかもしれません。前の模造刀に比べると軽く感じます」

「うーん、そうか。本当はこっちの方が重いんだけどね。実戦で使ってみてもらおうと思ったけど、作り直した方が良さそうだ」


 俺の初の刀がって思ったけど、今週は表向きダンジョンへはいけないので、試すこともできないのだ。三年度生は授業でも放課後の鍛錬でも自前の武器の持ち込みは認められていないからな。

 放課後に大坂ダンジョンへ行くという手もあるが、あそこは人が多いしなあ。


「来週はどこに行くか決めてるの」

「まだ、あとで調べようと思ってます」


 マスターランクを上げるため、消失推奨ダンジョンを探すつもりでいる。来週末は消失推奨ダンジョンに行きたいのだ。


「それじゃあ一週間はあるね。宅配で送ってもらったインゴット使ってみようか」


 聞かれているようで実は独り言っぽいので、もう少し刀を振るってみる。やっぱり軽い感じがする。

 机の上に刀を置くと、考え込んでいる粟嶋先輩に声を掛ける。


「先輩。武器の手入れって請け負ってます?」

「うん? ああ、やってるよ。でも四、五年生は自前の武器の手入れは外に出してる方が圧倒的に多いよ」


 学生の腕を信用できないってことかな。だけどこの刀、十分すごいんだけどな。


【レア・ウエポン】《小犬爪牙剣》リトルドッグの爪牙剣/切れ味上昇(極小)=


 極小だが効果付きなのだ。惜しむらくはでなくなところだ。形は刀なんだが、まだ刀までは至ってないと言うことか? よくわからんが。


 バックパックからエレホーンソードとマチェットを取り出す。ここは鍛治棟なのでウエポンケースオープナーがあるのだ。


「これ、エピックウエポンじゃないか。こんなの持ってるのか」


 粟嶋先輩はエレホーンソードを一眼でエピックと見抜いた。


「ああ、《鍛治師》スキルの熟練度を上げると《武具鑑定》と《素材鑑定》のスキルが習得できるんだ」


 俺の《アイテム鑑定》と違って、〝武具〟とそれに用いることができる《素材》限定らしい。素材は鑑定できてもそれがアクセサリーとかに加工されると鑑定できなくなるらしい。

 ちなみにアクセサリーは《彫金師》や《金属細工師》の《装飾品鑑定》と言うのがあるそうだ。


「費用は払います。ポイント支払いだと高額のやり取りは問題になるので現金でもいいですか」

「えっと、じゃあ素材支払いって可能かな」


 前にわたした素材は、あくまでも俺の刀を作るための素材で、試作品にも使うが、粟嶋先輩は自由に使わないのだそうだ。

 そこで、俺の武器以外にも使ってみたいものがあるので、素材支払いらしい。


「なら前に渡した分は自由に使ってもらっていいですよ、それと新たに知良浜ダンジョンでドロップした素材を渡しておきます」


 土嚢袋をバックパックから取り出し机の上へ置き、粟嶋先輩の方へ滑らせる。


「みても?」

「どうぞ」


 粟嶋先輩が袋をあけ、中のものを取り出したがその手が止まる。


「こ、これはエピックじゃあ……」


 袋の中にはレア星4のロングセンチピードの大顎とキラーマンティスの大顎と鎌、エピック星1のトゥースリザードの爪牙棘を入れてある。

《素材鑑定》があるのでなんの素材かすぐにわかったようだ。


「ロングセンチピードとキラーマンティスの外殻もあるんですが、鍛治の素材として使えるかわからなかったんで今日は持ってきてないですけど、要ります?」

「……ちょっと待って」


 何だか粟嶋先輩が涙目になってる。イケメンの涙目、女子がいなくてよかったような?

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