第141話 無駄(ではない)話
専攻は違っても同学年のサポート科同士、既知があって当然だよな。
「彼、《鍛治師》スキルを手に入れてから、刀型の武器作成に拘ってるのよね」
「スキルに頼れない部分を、自己学習で身につける努力家なところは、ジャンルは違っても尊敬するね」
鍛治と服飾で接点はないかと思ったが、ダンジョン素材を縫うには普通の針では使えず、牙や爪などで針を造ってもらったりするのだそうな。
探索科は他の科と交流がないからな。成績次第では探索科から他科への転科処置という名の転落があるから、落ちこぼれの行き着く先のように思っている者が多い。転科したやつは大抵中退や三年で卒業するからだ。
かく言う俺も転科を勧められた時は落ち込んだし。けれど
うちは農家だけど、お袋や婆ちゃんが道の駅に出す新製品の開発に賭ける
そんなもの作りに対するこだわりは、好きだから打ち込めるんだろうな。
「刀型武器かあ、本物の日本刀だと使い手の腕によっては折れたり刃毀れしたりがあるけど、ダンジョン武器だとその辺り使いやすいとは聞くけど」
「男子って多かれ少なかれ日本刀に夢見るのよね。使い勝手が良さそうには見えないけど」
「そこは浪漫だよ」
見た目
「こう、スッと抜いて波紋の浮かぶ刀身をキランとね」
刀を抜く仕草をする河中部長。
「部長がやると納刀時に指を切る姿が見えます」
「ぷっ」
「な、そ、そんなことは」
葉山副部長の言葉通りの様子を幻視してしまい、思わず笑ってしまいそうになって口を押さえたが、ちょっと漏れてしまった。そしてわたわたと否定する河中部長。
「鹿納く〜ん?」
「いや、たしかに納刀時に手を切るなんて普通にやりますよ。日本刀以外でも切れ味のいい武器はありますから」
ダンジョン発生前は真剣を持てるのは、居合道流派の有段者とかだけなのでそうそうなかっただろうが、今はダンジョン武器がある。
実践授業の際の貸し出しはないが、武器種の扱いの授業で様々な武器をさわれせてもらった。
武器にもよるが、そういうことをして手を切るなんてことはよくある。
西洋剣は斬るのではなく叩きつけるというが、斬れる剣もちゃんとあるのだ。まあ日本刀ほど切れ味のいいものはないようだが。
サポート科は育成科ほど多くの武器に触れる機会がないのだそうな。
ダンジョンで刀型の武器がドロップする率は少ないが、全く無くわけではない。この辺りはダンジョンに入ったものの思考を読み取っているのではないかと考察されている。
ドロップ装備にはその国特有のものが含まれているからだ。
ここからはダンジョンマスター知識。
制覇され〝消失〟を選択された場合、コアの持つ情報は集約される。
どこにと言われると、それは俺もタマたちもわからない。将来マスターレベルが上がれば知ることができるのかどうかも不明。
だが集められたコア情報は他のコアにフィードバックされる。
日本で刀型の武器が一番多く発見されているのは、青木ヶ原ダンジョンだが、あそこは未制覇ダンジョンなので、情報がフィードバックされていない。
青木ヶ原ダンジョンが制覇されれば、世界中に日本刀が広がるかもしれない。
現状ドロップの多くは西洋型の装備で、学校で使っている武器も西洋剣だ。
ちなみに日本で西洋型の装備が多いのはゲームのせいだろう。
1980年代にアメリカで作られた3DダンジョンRPGは、日本のコンシューマーゲームに影響を与えた。
リアルにダンジョンがある現代においても、この手の需要は尽きない。俺も小学生の頃は友達と熱中した。
最近は実際のダンジョンのマップやモンスターを反映させたゲームもあるくらいだし。
「でもいいよね、刀型武器」
「粟嶋君に刀型武器を頼んだのなら、それに合わせた剣帯とかも必要になるんじゃないの? 鹿納君」
葉山副部長が、新たな作成物の出現に瞳をキランと光らせる。
「えっと、今使ってるもので……」
「いえ、それはどうかしら。腰にはくのもいいけど探索者はとにかく移動するんだから、邪魔にならないように背中に刺すこともあるでしょう?」
「いいね、背中からこうすっと……」
河中部長が背に履いた刀をスッと抜くジェスチャーをする。
「部長がやると抜刀時に肩を切る姿が見えます」
「ぷっ」
「鹿納く〜ん?」
「ぶはっ」
先ほどと同じようなやりとりが繰り返されて、今度は耐えられず吹き出してしまった。
なんだろう、こんなふうにらちもない会話で笑ったのは久しぶりの気がする。
クラスメートとはないやりとりだ。
いじめ以前もクラスメートは仲間というより蹴落とし合うライバルという方が大きかった。
特に同中から進学したやつはおらず、全国に五校しかない迷高専にはあっちこっちから生徒が集まる。
そういえば前橋と鈴木は同中出身だった気がする。だからいつもつるんでいるのかな。いやあいつらのことはどうでもいいや。
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ちょっと改稿に手こずってたら、こっちのストック切れちゃいました。あうあうっ
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