第58話 放課後事情


 行きはどこからでも転移できるので、トイレの個室にでも篭れば誰にも見られずにすむ。問題は帰りだ。終校時間間近となれば帰宅を急ぐ生徒が出入り口に殺到する。


 第三校ダンジョンの入り口は協会のダンジョン外施設件学校施設のある建物で塞がれている。

 図書室や食堂、教員会議室や事務関係の窓口もこっちの建物の中だ。一階はエントランス、協会の案内及び受付と改札があるだけ。生徒手帳はこの改札を通る際のパスでもあり、通過時間を記録する機能がある。

 出入りが記録されるのは探索者の免許証と同じシステムだ。


 終校時間の六時をオーバーすると、ペナルティーがあるのでみんな時間までに出ようと急ぐ。

 終校とはいわゆる下校の時間のことだ。迷高専では終校時間までにダンジョンから出なければならないと校則に記されているため、オーバーすることは校則違反になるのだ。

 二階層の下り階段を最低五時半に通過しなければ、改札を六時までに出るのは難しい。

 ということはここに五時半以降であれば人がほぼいないと言える。でもそれじゃあ俺が間に合わないな。

 二階層への下り階段の入り口は高さ四メートルほどの岩山にトンネルのように口がポッカリ空いている。そこから校舎に向かって人が通るところは手入れがされているが、岩山の周囲は背の高い草が生えている。しゃがんだ状態で転移すれば見つからないし、一人で鍛錬していたと思われるかも。

 それにみんな帰りを急いでいるんだから、ここで一人くらい増えても気付かないかもしれない。

 うん、帰りはここがいいかも。


 午後の授業が終われば、鍛錬着に着替えて行ってみるか。木剣も借りて鍛錬するフリして行こう。




 今日の午後の授業は一般科目の為、三クラス合同で行われる。

 一授業九十分なので、間に休憩を挟んでくれる教師もいるが、古文の教師はぶっ続けでする。もう呪文のようで眠気が襲ってくるのをなんとか凌いだ。


 授業中も休憩時間も、極力クラスメートたちとは関わらないように過ごしている。

 二年度で別クラスだった奴らは特に接触して来ようとはしないので、Hクラスの面々は絡んでこない。

 なんせ俺と同じHクラスにいるってことは最下位クラスにいるということだ。前橋たちのように他人に構っている暇などないのである。


 三年度で結果を残せるかどうかが、今後の探索者人生に影響するのだ。皆必死に放課後も鍛錬に励む。


 未だに合同授業の休憩時間に絡んでくる前橋は、何を考えているんだか。こういうぶっ通し授業だと絡んでくる暇がないのでありがたい。




 三年度生は午後の授業が終わると皆に遅れをとるまいと、我先にと教室を出て行く。放課後は鍛錬場が三年度生に解放されるのだ。帰りのホームルームは金曜にしかないからな。

 迷高専にも部活はあるのが、一般の高校の部活とは異なる。

 サッカーやバスケのような一般スポーツの部活もあるにはあるが、目的は集団行動しつつ場を観察し判断する能力、咄嗟の動き、連携などを鍛えることが目的とされている。

 それとは別に単純に戦闘力に繋がる武術系の部活は人気だ。それも三年度になれば実戦形式の戦闘の方が良いのでそちらを辞め〝模擬戦部〟に入り鍛錬場で戦闘訓練を行う。

 模擬戦部も一つじゃなくいくつもあり、気心の知れた仲間が集まるところは若干クランっぽい。


 四、五年度生は午後の授業というか、午後は実戦授業なので中層の探索を続けているので大体終校の六時まで戻ってこない。


 俺も二年度まではたまにサッカーをしていたが、三学期に入ってすぐやめた。

 だいたい部活をするのは探索科だと二年度生までだけど、サポート科の技術学部と魔素学部なんかはそれぞれの専門授業の延長みたいな部活に所属しており、卒業まで続ける。

 この学校に将来につながらない部活に時間をさく奴はいない。


 鍛錬場の区画とりは早いもの勝ちなのだ。そして誰もいなくなってから俺は教室を出て、更衣室で着替えを済ませた。

 まだ着替えている他の生徒もいるが混雑は免れている。


 遅めに行くと鍛錬場に空きは無くなっている。模擬戦などをするグループは広めに場所を使うのだ。

 場所取りに失敗した奴は端で素振りや基礎体力作りなどをする。

 俺は下り階段近くまで移動し素振りを始めた。


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おまけ情報 学校の時間割


8:20 予鈴

8:30

 ↓ 朝のショートホームルーム

8:40

 ↓ 一時限目

10:10

 ↓ 休憩

10:20

 ↓ 二時限目

11:50

 ↓ 昼休み

13:00

 ↓ 三時限目

14:30

 ↓ ホームルーム(三時限目が実技だとない)

15:00

18:00 終校時間


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