第146話 体力測定


 無事中間考査が終了した、というか残すはダンジョン外での体力テストを残すのみとなる。

 これは最寄りの体育館を借りて行われるため、一年度生以外の生徒が揃う。

 一年度生は実践授業がないし、ダンジョン内での活動期間も短いため、一学期での体力測定は、入試時に行っているため一学期中に体力測定はしない。

 この入試時の体力測定が基準となり、基礎能力初期値と呼ばれる。


 基礎能力はダンジョン効果の及ばない外での体力を測り、D能力と呼ばれるダンジョン内での体力測定結果との差からレベルを算出する。

 基礎能力初期値ではD能力との差はない。レベルアップする前だから当然だけど。


 測定するのは基礎能力かD能力のどちらか一方でいいんじゃないかと思うんだが、そこは迷高専を使ってデータの収集という目的があるからな。


 今は討伐モンスターの種類とか数とかの資料までは出さなくていいけど、最初の迷高専ではそこまでのデータ収集をしていたらしい。そのおかげでレベルアップの基準値が設定されてるんだけど。

 日本のみならず、世界中のDDSが収集したデータを用いてレベルアップ基準値が設定されたのは十年前になる。




「あれ、まだHクラスにいたんだ。諦めて転科してるかと思ったのに」


 そんな言葉を聞こえよがしに言ってきたのは元班メンバー。班の中では一番成績がよく、唯一上クラス(と言ってもDクラスだけど)入りした中村だった。

 声の大きい前橋に隠れてわかりにくかったが、こいつは班の中でさりげなく前衛職を取り、誰よりも討伐数を稼いでいたやつだ。そう、俺の戦闘の機会を一番多く横取りしていた奴ってことだ。


 俺は無視して五十メートル走の列に並ぶ。

 迷高専男子三年生の平均タイムは6秒台で、一般の高校生より1秒は早い。一年前の俺のタイムは8秒台だった。三年だとAクラスで5秒台を出した生徒もいるそうだ。


「オンユアマーク」


 Hクラス最終グループの五人が並ぶ。隣の1000メートル走の順番待ちをしていた中村が蔑みの混じった目をチラチラ向けてくるが、無視だ。

 スターターの合図で一斉に走り出す。頭ひとつ抜け6秒38でゴールした。


 ようやくクラス平均値だが、2秒縮まったよ。探索をがんばった甲斐があったというものだ。


 嘘です。ちょっと調節しました。多分本気を出すと5秒いきそうな感じ。途中で微妙に力を抜いた。流石にぶっちぎりのタイムを叩き出したら注目を浴びてしまうからな。


 それを驚愕の表情で見ていた中村が、自分の1000メートル走の出走に遅れてしまい、慌てて走り出した。



「途中で失速したみたいに見えたのだけど」

「おわっ」


 当然背後から声をかけられ、思わずとびのいた。


「松本……」


 こいつ、隠密スキルでも持ってるんじゃないか?

 普段サーチに頼りすぎて、サーチを切っていると気配が分かりにくい。やっぱり気配察知欲しいな。


「まあ、それはいいわ。アンダーウエア完成したから今日取りに来る?」


 体力測定が終われば現地解散になるので、学校に戻らなくともいいんだけど、粟嶋先輩から頼んでいた武器の整備が終わったって連絡もらったから、取りにいく予定だったんだ。


 ちなみに今日の体力測定は、サポート科四年度生は自由参加だ。

 ほぼモンスター討伐をしていない粟嶋先輩や総合服飾研究クラブの河中部長や葉山副部長も参加していない。


「鍛治の方に行く用事があるから、その後によるよ」

「わかったわ。じゃあね」


 松本は……足音をほとんどさせずに去っていった。やっぱり、じゃなかった。


=【レア・装備】《消音靴下サイレントソックス》消音効果(中)=


 おいぃ、そんな靴下履いてて……まあダンジョン外だと効果は10分の1だし、足が速くなるとかじゃないから体力測定には影響しないはず?


 というかレア装備だけど、自分で作ったんだろうなあ。




 体力測定は無事終了した。どの項目も上クラスのCクラスからBクラスの生徒と同じくらいの結果にした。


 前橋や鈴木が何か言いたそうな視線を向けるが、絡んでは来なかった。

 中間考査の結果でのクラス変更はないが、期末考査の結果ではクラス変更がある。

 二学期からは俺はHクラスを脱せるだろうな。

 ちょっと前なら飛び上がって喜んだろうけど、今はクラスに対する思い入れが亡くなった感じで、そこまで嬉しさが込み上がってこない。



 ここしばらく考えてたんだけど、迷高専は今年で卒業しようと思う。


『あの教師とかいう人間の言ってることは、正しくないですにゃ』

『ふむ、間違いに気付いてないですワン。主、教えて差し上げてはいかがですかワン』


 なんて授業中に影から念話を送ってくるのもいるし。

 ダンジョンマスターになったことで、一般に知られているダンジョン知識よりもより正確で大量の情報を手に入れたので、このままここでダンジョン学を学ぶ必要はない。

 じゃあいますくやめて探索者としてやっていけばいいと思うだろうけど、世間との認識のズレを知る必要はあるんだよ。


 それに高校卒業資格の方の単位をクリアーしていないんだよ。松本と違ってな。

 流石に最終学歴中卒はダメだ。親に顔向けできないし。


 残り一年ないけど、ここで仲間を作ることができるんじゃあないかと思っている。

 探索者仲間じゃないよ。サポート科仲間だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る