第122話 知良浜ダンジョン1日目②



 広いと言ってもまっすぐ下り階段を目指せば、さほど時間はかからない。

 途中戦闘目的でモンスターを探したりすれば話は別だが。

 今回は浅い階層のモンスターのドロップは必要ないので、できるだけ下に降りることを優先する。

 向こうから突っ込んでくるのは倒していくが、それも二階層までのことで、三階層四階層と全くエンカウントしなかった。

 そして一時間ちょっとで五階層にたどり着く。

 そこで、モンスターとエンカウントしなかった理由がわかった。


 ボス部屋前の安全地帯では、到着したばかりの企業所属の探索者パーティーが荷下ろしをしていた。


 彼らは俺が更衣室に行く前に入ダンしていったパーティーと思われた。彼らが直進コースのモンスターを処理しながら先行していたので、俺が通る時にリポップしていなかったんだろう。


 しかし、安全地帯に空きスペースがない。占有は二分の一までというのは、一社でという意味ではなく全体でなのだが空きは三分の一もなかった。

 よく見れば五菱の社章エンブレムがついたターフと、山崎重工の社章がついたテントの他、大坂マテリアルと書かれたテントもあった。

 五菱や山崎のような大手ではないが、大坂マテリアルも近畿圏では最近伸びてきた企業だ。

 うちの第三迷高専の就職説明会の常連会社だ。


 五階層の中ボス部屋の扉は空いていた。そこに五菱のパーティーが荷物を背負って入っていく。

 ここで待機していたパーティーと交代したようだ。

 このままだと彼らの後ろをついていく形になるのか。でもここで休憩は取りにくいし、ちょっと六階層を探索して五菱のパーティーと距離を取ることにするか。



 そして降りた六階層は森タイプ。ここも道らしい道はない。草原タイプよりは迷いやすいのだが、俺には〈マッピング〉と〈サーチ〉があるので、迷っても元の場所に戻ることは容易だ。


 森タイプで気をつけなければならないのは、木の上に潜んでいるタイプのモンスターだ。

 ジャンピングスパイダーやニードルビー、松の樹皮みたいな鱗を持つバークスネークなどは上から襲ってくる。

 上ばかり注意してるとブラックポーキュパインやフォレストリンクスなどが木の影から飛びかかってきたりする。


 ジャンピングスパイダーは糸束をドロップするが、コモンなのでさほど重要ではない。

 ニードルビーやブラックポーキュパインは針をドロップする。針といっても裁縫に使うような小さなものではなく、鏃とかに加工されるくらいに大きい。

 あとは鍛冶や防具の素材として加工されたりとかだな。


 少し直線コースをはずれたら、そこそこモンスターがいるが、他の探索者もいるのでタマたちにはまだ隠れててもらった。


 ちょうど上から降ってきたジャンピングスパイダーにエレホーンソードで〈ラッシュ〉をお見舞いすると、あっけなく黒い粒子に変わった。

 ジャンピングスパイダー自体は脅威度3でさほど強くはない。

 ただ大きさが7〜80センチくらいあるハエトリグモタイプで、近くで見たくないタイプのモンスターだ。

 女子じゃなくてもな。


「お、スクロー……るじゃないな」


 巻物のようなドロップだったので、スクロールかと思ったが違った。


=【コモン・アイテム】《跳蜘蛛布》ジャンピングスパイダーの糸で織られた布=


 クルクルと巻かれた布だった。幅は40センチほどだが、長さは十メートルくらいだ。

 ジャンピングスパイダーの布は特殊効果はないが、薄くて丈夫、ちょっとみオーガンジーっていうのかな。向こうが透けて見える布だ。


 お袋の希望には添えない品だが、何かに使えるだろう。一応ジャンピングワラビーの腹袋に突っ込んで、先へ進む。


 七階へ降りる階段前では企業と関係のない一般の探索者が2パーティー休憩をとっていた。

 五階層が企業にほぼ占領されていたため、他で休憩をとっているようだ。

 まあまだ昼食には早いので、俺はペコリと頭を下げて通り過ぎた。


 五菱のパーティーとは随分離れたようで、七階層へ降りた時には影も形もなかった。そして七階、八階、順調に進んでいき、時々は向かってくるモンスターを倒しつつ、九階層への下り階段を発見したときは十一時を回っていた。


 階段の場所を確認したので、少し八階層を彷徨く。森は死角となる場所はいくらでもある。一応近くに探索者がいないことを確認して〈マーキング〉してからマイボス部屋に転移した。



「マスター、昨日待ってる間にカウ肉をとってきましたにゃ。《倉庫》に入れてますにゃ」


 マイボス部屋に帰ってきた途端、タマとポチが影から現れ、タマが足元に身体を擦り付けつつ報告してきた。


 俺とポチが探索を終える前に改装は終了していたので、階層の具合を確認するという名目で、アンゴーラカウを三頭ほど狩ったらしい。

 その際、魔石1個とカウ乳1個とカウ肉1個ドロップしたのだとか。


 それ、肉がドロップしなかったらもっと狩ってたよな。まあいいけど。

 そんなわけでリクエストに答えて昼間っからカウ肉のステーキを食べました。


「我のおかげで口にできるのだから感謝しろ」

「アンゴーラカウを設置できるようになったのは吾輩のおかげである、感謝するのはそちらだろう」


 ってな感じでやりとりしてるのだが、小声のつもりか知らないが全部聞こえてるんですけど。

 二匹もうちょっと仲良くできんのかね。











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