第148話 気付いたこと


「そういえば、先輩この前の話し、受けるんです?」

「うーん、ありがたい話なんだけどね」


 唐突に正村が粟島先輩に話を振った。

 俺が会話が見えず、首をかしげていると、正村が説明した。


「先輩まだ一学期なのにいくつかの企業からお誘いが来てるねん」


 サポート科職人コースは基本四年だが、こちらも三年で高卒資格を取れば卒業することが可能だ。

 だから二学期にある就職説明会よりも前にフライングで企業に接触してもいい。会社見学を申し込めば、夏休みや冬休みに会社見学ができたりもする。


 迷高専は夏休みが八月一日から八月二十一日までの三週間しかない上、世間ではお盆休みだから、短いけど。

 冬休みも年末年始で似たような者だけどな。


 粟島先輩はこっちからじゃなく、向こうからのフライング接触か。


「ゴールデンウィーク中にOBの人が会社の上司を連れてきはったんよ」

「去年その先輩と一緒に会社見学したからね」

「まだまだ大手とは比べたらあかんけど、大坂マテリアルは一部上場してるし成長見込めるんちゃいます?」


 大坂マテリアルって確か知良浜ダンジョンに探索者送り込んでたな。


「うーん、ありがたいんだけど企業に就職しちゃうと自分の作りたいものが造れなくなるからねぇ。刀鍛冶のスクロールでも貰えるっていうなら考えないこともないけど」


 そういっているが、無理とわかっているのでまあ冗談だろう。

 でも《刀鍛冶》があれば刀以外の武器を作れとは言われないだろう。


「ただの鍛治師じゃあ、武器制作に配してもらえるかもわからないし、多分境ダンジョンあたりで自分で採取しつつ貸し工房を借りてって感じになりそうかな」


 そっか、もう先のことも考えてるんだよなあ。


「じゃあ卒業して企業に就職したら、粟嶋先輩に個人的にお願いするってできなくなるのかな」

「どうかなぁ。会社にもよるよね。工房設備を私的に使わせてくれるかどうかはわからないし、結局は休日に貸し工房で作業って感じになるかなあ」


 確かにダンジョンを所有している企業もないわけじゃあない。だが大坂マテリアルはダンジョンを所有してなくって貸し工房だったような? 


「そういえば正村の親父さんって」

「ウチのおとんは倞都の亀丘ダンジョンの工房を個人で長期契約しとるなあ」

「そう。僕もできればそんな感じでやっていきたいんだけど、先立つものがねえ」

「でもおとんが言うとったけど、ダンジョンの個人所有の条件が緩和されるかもしれんて言うとったよ」


 ダンジョンの個人所有の条件?


「ああ、あれ。制覇済みダンジョンに限りでしょう。どっちにしろゲートの出現した土地を三年以上所有してないととかいろいろ条件があるし、そもそもそんな土地も心当たりのあるダンジョンもないし」

「それ、まじですか」


 俺が二人に聞くと意外そうな顔をされた。


「サモナー職が発見される前は結構話題に上がってたよね」

「うん、クラスでもみんな話題にしとったで」


 教室では基本ボッチなので、どんな会話が交わされてるとか注意したことがない。

 最近は空いた時間はダンジョン探索に当ててるし、休息もマイボス部屋で取ってたりするから、テレビもないしスマホも圏外だ。アパートで使うときは必要最小限な情報しか検索しないし、俺世間から取り残されている?


「まあ僕たちには関係のない話だよね」

「ウチのおとんは会社設立して共同で所有しよか、なんて話し持ち込んでくるやつがおるんやけど、どうも詐欺っぽいのが混じってて厄介やゆうててな」

 

 これは後でちゃんと調べておこう。やり方は細かく考える必要もあるし、タマやポチにできるかどうかも確認しないといけないが。


 実家に裏山ダンジョンのゲートを開いて所有することができるかもしれない。

 うん、まだもっと成長させる必要はあるけど、一年くらいの長期計画で……


「──っていうねん。詐欺師ってなんでもネタ見つけてくるんやなあ」

「お父さんよく気がついたね」

「そこは元Aランク探索者、舐めてもーたら困るわぁ」


 結構長く雑談をしてしまった。この後総合服飾研究クラブの方にも顔を出す予定にしてたが、いつの間にか時間が経ってしまっていた。


 俺は自分で思っていた以上に、こういうやりとりに飢えていたのかもしれない。

 ちょっと変わったというか一癖も二癖もありそうな連中だけど、なんだろう? 

 何がクラスの連中と違うんだろう?


 そんなふうに考えながらB5へ向かうと、癖の多さ筆頭が待ち構えていた。


「遅かったわね」

「鍛治工房に用事があるって言ってただろう」

「まあいいわ、こっちにきて」


 なんだろう、会話だけ聞いてると浮気を疑っている嫁と、言い訳している旦那の会話のようだ。いや松本は男だから。


「やあ、鹿納くんいらっしゃい。バックパックの見本が……」

「鹿納くん、この前言ってた剣帯なんだけど……」

「それより、これに着替えて……」


 ああ、そっか。彼らはだからか。

 確かに自分たちの作りたいものに対する情熱が、彼らを動かしているんだけど。

 彼らが作るものは探索者他人のためになるもの、役立つものを作るという時点で、常に自分以外の視点を考えているんだ。


 自分が、俺がと他者を落として這いあがろうとする探索者コースの……まあ、あえていうなら低クラス限定だと思うけど。


 俺って自分以外のこと考えてたかな。自分のことに必死で周りを見てなかったかもしれないな。


「あの、順番にお願いします」


 



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 この回読むと今後の展開の予想つきまくると思いますが、ネタバレコメント控えめでおなしゃす(;´Д`A

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