第109話 取引

 


「なあタマ、アンゴーラカウのポップ設定って終わったっけ?」

「まだですにゃ。九階層をそのまま使うか、アンゴーラカウ向けに作り直すか未定でしたし、改造の際はタマがにいる必要がありますからにゃ」


 そういえばドロップ率の話をちょっとだけしたな。

 改装や設定をいじる際は、俺かタマがコアルームにいる方がやりやすい。全くできないわけではないが、無駄なリソースを消費する。

 倉庫のものをリソース化する分には関係ない。そもそも倉庫自体がダンジョンとつながっているのだから。


 このままの草原フロアでも問題ないが、いざ探すとなったらそこそこ広いので面倒くさいかなって思ってたんだよな。


「じゃあさ、九階層の一部を区切ってそこに集中してポップさせよう」


 うむ、アンゴーラカウの牧場だな。


「了解ですにゃ。区切るのはフロアの三分の一ほどで良いですかにゃ」

「それでいいよ。あとは任せていいかな」

「にゃ! それはタマはこのあとお供できないということですかにゃ!」


 ガーディアンが二体になったので、どちらか一体が護衛に着いていれば、残りの一体は離れられる。だったらタマにはダンジョンの改装をしてもらいたい。


「うむ、マスターは吾輩に任せるワン。なんならダンジョンの改装を我輩に任せてもらっても良いのだぞワン」

「ぐぬぬ」


 タマがジレンマに陥っている。

 俺についてきたいけど、裏山ダンジョンは元はタマのダンジョンだ。

 けれど俺がダンジョンマスターになったことと、ポチが俺のガーディアンになったことで裏山ダンジョンのコア業務をポチもできるのだが。


「ぬぬぬ、わかりましたにゃ。タマは九階層の改装に着手しますにゃ。それと増えたリソースを使って階層数を増やしますかにゃ」


 せっかくなのでダンジョンの改装を進めておこうというのかもしれないが。


「いや、まだどういうふうに作りたいかとかちゃんと考えてないから、そこはまた今度で」

「わかりましたにゃ」

「悪いなタマ。任せてしまって」

 俺はタマをなでなでしてから立ち上がる。

 装備や荷物を持って六階層に転移した。


「!」

「おっと、悪い。よそ見してた」


 六階層の階段に転移した途端、階段を登ろうとした探索者に鉢合わせした。

 危ない、こっちに人が移動してきてることを失念した。


「い、いや。俺も急いでたから」


 ちょうど後ろを振り返っていたようで、俺のことは階段を降りてきたんだと思ってくれたようだ。そしてこの探索者のパーティーメンバーは少し遅れてやってきた。

 一人が両脇を支えられている。どうも怪我をしているようだ。


「な、なあ君ヒールポーション持ってないか」


 ぶつかりかけた男は俺の後ろに仲間がいないことに気がついて、唐突に切り出してきた。

 ソロ探索者は〝備え〟ておくことは当然の傾向にある。今や当たり前と言ってしまってもいいのかも。

 だから俺も持っていると思ったんだろう。


「協会の売値に色をつけるから、売ってくれないか」


 支えられた後ろの男は出血とかはなんさそうだが、七階層以降はゴーレムばかりだから、打撲による怪我か。


「俺が今持っているのはミドルヒールと、解毒、解麻痺ポーションだけなんだが」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 協会の基本買取価格はローヒールポーションが一万だが、売値が一万三千から一万5千円する。ミドルヒールポーションは買取価格が五万で売値は七万から八万する。

 売値は若干の時価というか供給不足な時は価格が上がるのでばらつきがある。

 できるだけ、安い時に買うようにするものだけど。

 俺がローヒールポーションを持っていると思って、売値に色をつけると言ったんだろうが、ミドルの売値に色をつけたら最低八万円ってことになる。


 四人で話し合いをしたようで、結論を出したようだ。


「ミドルポーションなら申し訳ないが八万円でどうかな」


 俺の方は二本あるから一本譲ってもいいのだが。これは協会の窓口で鑑定をしてもらっていないため、ミドルヒールポーションだと証明ができないのだ。

 その場合、使用して効果を確かめた上での支払いとなる。

 最悪効果がなかったと踏み倒す奴もいるので、ダンジョン内での探索者同士のやりとりは信用商売なのだ。


「いや、俺の持ってるポーションは協会の鑑定を受けてない。それでもよかったら六万円で譲るが」


 世の中鑑定のスキル持ちや鑑定の魔道具は結構あるので、そういうのも出回っている。協会も買い取らないポーション類に鑑定済のシールを貼る際は金を取る。


「それでいい、ただし支払いは効果を確かめてからになるがいいか」 


 男が腰のポーチから自分の探索者免許証を取り出すと、俺に見せた。

 俺はスマホを取り出してそれをうつすと、今度は俺が免許証を出し男に見せる。

 男も同じように俺の免許証をスマホで移した。


 ダンジョン内でのやり取りに協会は感知しないが、これは万が一の時のために取られる。

 そしてお互いのやりとりを動画で残し、詐欺られた時は協会に訴えられるのだ。

 お金は戻ってこないが、詐欺相手は要注意探索者として協会のブラックリストに登録される。

 俺とその男が撮影しながら、俺が渡したミドルポーションを支えられた男にのませた。


「八階層でロックゴーレムが二体でてな、多分肋骨にヒビが入ったか骨折かしてるんだ」

「骨折にミドルポーションは効かないんじゃ」


 骨折を治すにはハイヒールポーションが必要なはずだ。


「完治はしないが痛みがマシになるし、ひびなら治るさ」

「ああ、痛みがひいてくよ。これミドルで間違いない」


 怪我をして支えられてた男が支えなしに一人でたった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る