第108話 出張所

 

 四階層から五階層への下り階段のところに協会の出張所がある。

 そのため、ここで休憩を取ることが難しい。出張所の為スペースがないのだ。


 なぜこんな所に出張所があるのか。

 他のダンジョンではほぼ見かけないのだが、これは境ダンジョン四、五階層に出るモンスターのドロップ品のためだったりする。


 四階層に出るロックボールのドロップ率はこんな感じ。

 

=【コモン・ロックボール】【魔石50%・鉱石10%・欠片10%・重石10%。・アイテム10%・なし10%】=


 この重石なんだが〝ジュウセキ〟ではなく〝おもし〟の方だった。

 ちょっとタングステンなのかなと思ったけど、浅層にタングステンは出ないと思い出し無駄な期待だったなと実物を見てちょっと凹んだ。


 そしてこの重石おもしなんだが、まるっと漬物石だった。


=【コモン・アイテム】《重石》5キログラムの重石=


 きっちり五キロと計ったような重さである。

 これ持って帰っても使い所がね。まあ何かに使えるかもしれないから《倉庫》にしまっておくことにしたんだが、この出張所で買取をしていたのだ。


 この重石はそのままで使用するのではなく、砕いて建築物のコンクリートなどの建材に使用するそうだ。


 そしてここの五階層に出現するモンスターは、脅威度3のロックキューブだ。

 ロックボールが四角くなっただけなんだけど、丸と四角じゃ転がり方が違って、キューブは〝イレギュラーな転がり方をするので注意が必要〟と粟嶋先輩メモにあった。

 ちなみにドロップは〝礎石〟だそうだ。


 礎石って確か家建てる時に柱の土台とかにするやつだよな。日本の家屋では当たり前だったが、昨今の洋風建築には使われなくなったとか。

 しかしこっちの礎石は協会において超重要なアイテムだったりする。


 粟嶋先輩メモによるとダンジョン内に建物を建てるとき、この重石と礎石を使うとスライムに浸食されないのだそうな。知らなかった。

 でも礎石なんてひとつ十キロもあるから、そうそう持って帰る探索者はいない。

 それほど重要なら買取価格を高く設定すればいいと思うのだが、そうすると採算が取れなくなる。かと言って安いとわかっているものを持ち帰るのは労力と金額が釣り合わない。

 そこでこの出張所だ。礎石と重石がここで納品できるシステムになっている。


 探索者も1〜2個くらいなら、この階段前出張所まで運ぶのだ。

 そしてここで買い取りの仮手続きをする。

 ものは協会の運搬担当の探索者が特殊なキャリーを使って、リレー方式で運び出すのだ。

 炭鉱型ダンジョンだけあって、オブジェクトにレールがある道もあるので、そんなところを使って運び出す。人件費はかかるが買取価格を抑えることができ、結果こちらの方が協会としての出費は少なくなるのだそうな。

 ここでは他のドロップ品も買取してくれるが、外まで運んだ時の価格の半額らしいから、そこはどっちがお得かドロップ品によって考えればいい。


 今は重石一個しかないので利用はせず、そのまま五階層の探索を進める。

 しかし五階層の中ボス部屋に到着するまでになかなか時間がかかった。

 地図があるとはいえ初めてのダンジョンだ。九時に入って五階層の中ボス部屋前まで四時間なのだから良い方だろう。


 ここまでマッピングの方はほとんど埋まっていない。

 採掘ポイントはどこも先着がいるし、モンスターのエンカウント率もしょぼい。

 さすがゴールデンウィークだ。兼業探索者もダンジョンに来るので仕方ない。


 中ボス部屋の前は安全地帯なので、他の探索者パーティーも休憩をとっている。

 直前の安全地帯が出張所で使えないから余計にだな。

 やっぱりソロは目立つようで、ここでお昼を食べようと思ったけど視線が鬱陶しいのでやめるか。


 中ボスは倒されており、五階層の中ボス部屋の扉は空いている。階段を降りつつ前後に誰もいないことを確認して《階層転移》でマイボス部屋へやってきた。すぐにタマとポチが影から現れた。


「お疲れ様ですワン」

「ご苦労様ですにゃ」

「タマもポチも退屈だろう、あそこは人が多いからもうちょっと待ってくれ」


 荷物を下ろして昼食の準備に入る。中ボス部屋の前で食べるならとコンビニおにぎりを買ってあったが、ここで食べるなら別のものにしよう。

 カウ肉でも焼くか。確かカット済の野菜もあったな。

 チャチャっと肉野菜炒めを作って食べる。タマとポチの分は肉だけだ。


「ほほう、これがカウ肉ですかワン」


 ポチは初めての食事だ。


「いただきますにゃ」

「む、その言葉はなんだワン」

「食事の前の挨拶だよ。俺が習慣でいつも言ってるからタマも言うようになったんだ」

「なんと、それでは吾輩も、いただきますワン」

 ポチが自分もと言ってから肉にかぶりついた。


「こ、これは、はぐはぐ、確かに、はぐはぐ」


 一心不乱に食べ始めたよ。

 俺も食べようっと。


 午前中の探索ではあまりモンスターとエンカウントしなかった。

 まあ二階層を抜けるまでの時間がかかったから、仕方ない。


 トータルではクレイスライム2体で魔石2個。

 クレイパペット3体で魔石1個、泥炭1個、ハズレ1。

 サンドパペット1体で欠片1個。あれっきり出会わなかったよ。

 ロックボール2体で魔石1個と重石1個。

 ロックキューブも出会わなかった。








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