第107話 境ダンジョン浅層②

 

 ようやく三階層に到着して、ここでさらに探索者がバラけた。

 三階層は下り階段までは一本道ではなくなるので、ようやくスピードをあげることができる。

 とは言っても初めてのダンジョンだから、警戒しつつ進むまないと。


『主様、吾輩お手伝いしたいですワン』


 ポチが声をかけてきたが、ここはまだ探索者が多い。


『人が多いから、ここではだめだ。五階層を過ぎて人が減ったらな』

『さようですか。残念ですワン』


 ポチがしょんぼりした念話で伝えてくる。念話って感情も伝えてくるよな。

 ダンジョンコアって無機質っていうかロボット的な感じなのに、ガーディアンになった途端感情豊かになるものなのかな。

 ポチは口調と語彙が迷走してる感じがするよ。一人称の吾輩と言い、若干武士っぽいのに語尾には〝ワン〟がつくんだから。


 境ダンジョンに入ってすでに二時間以上経って、初のモンスターだ。

 サンドパペットは二階層以降に出現する。


=【コモン・サンドパペット】【魔石50%・鉱石10%・欠片10%・研磨剤10%。・アイテム10%・なし10%】=


 クレイパペットから鉱石がドロップするんだから、サンドパペットからドロップしてもおかしくないよな。

 そして泥炭に続き今度は研磨剤? あれか?サンドペーパーみたいな?

 とりあえずここは使い慣れた……というほど使いこなせていないエレホーンソードとマチェットを装備した。


 まずエレホーンソードはダメだ。刺突攻撃を喰らわせても砂を若干撒き散らして貫通するが、向こうはなんともなさげである。

 それではと胴あたりを薙いでみたがこれも砂が散っただけ。核に当たらなければほとんどダメージなしのようだ。

 マチェットの面での薙ぎ払いが一番砂を散らした。


 砂を散らすだけで効果無しかと思ったが、徐々に体を構成する砂が減ってきているようだ。散らばった砂はしばらくすると黒い粒子に変化した。


 十回以上の薙ぎ払いの末、マチェットは核にヒットしたようだ。砂が崩れ落ちて黒い粒子が立ち上った。


「効率わるっ」


 武器があってないのはわかっていたが、こんなに時間がかかるとは思わなかった。もっと簡単に倒せる方法ないのかな。


「あれ、砂が残ってる?」


 ドロップ品がでないかと見てたんだが、砂山がそこに残っている。


『それは、ドロップですワン』

『サンドパペットの〝欠片〟ですにゃ』


 ……クレイパペットの欠片は泥だから、サンドパペットの欠片は砂だよな。


「けど、カウ乳みたいに何か入れ物に入れてくれよ。こんなの持って帰るのに袋がいるし。高校球児じゃないんだから砂拾わねえよ?」


 苦労に見合わないドロップ品で、思わず愚痴ってしまった。

 一応何かに役に立つのかと鑑定してみる。


=【コモン・パーツ】《サンドパペットの砂》水を含むと固まる=


 境ダンジョンは別名鍛治ダンジョンとも言われている。

 一階層に鍛治長屋があるだけでなく、鍛治に使える素材が多くドロップするからだ。

 素材だけでなく、トレジャーボックスもその傾向がある。

 ドロップウエポンにハンマーとかも多いと聞く。

 スクロールだって《鍛治師》がドロップしやすいらしい。

 粟嶋先輩もここで知人の探索者がドロップした《鍛治師》を譲ってもらったんだとか。当然タダじゃないけど。


 だけどここの深層で《剣鍛治》のスクロールはドロップしているが、《刀鍛冶》は出ていない。

 もっとダンジョンが成長すれば出るかもしれないと期待されてはいる。


 クレイパペットの泥炭も燃料になる。欠片も泥炭ほどではないが燃えるそうだし。まあ《鍛治師》のスキル持ちは炉を使わずに加工できるらしいから、あまり必要ないけど。


 サンドパペットの研磨剤とかも研ぐのに使えるんだろう。じゃあこの砂もそういうのに使えるのか。

 アイドルのテレビ番組で見たけど鋳造に砂で型取りをするんだよな。水で固まるなら型どりしやすいのかな。


 水で固まる……サンドパペットの欠片……


「あ、ああ」

『いかががなされたワン』

「いや、なんていうかサンドパペットの簡単な倒し方があったんだなって」


 ちょっと脱力。いやしかし俺の考えが正解とは限らない。


「よし、サンドパペットを探そう」


 そしてそういう時に限って出てくるのはクレイパペットだったりするのだ。

 武器はエレホーンソードとマチェットをしまってダブルファングにしてみた。

 しかしこいつも飛び散るのが泥か砂かの違いだ。


「ちっ、こんなレベルのやつに使うことになるとは〈ブラックファング〉」


 対の黒い短剣、見た目も厨二心をくすぐるのだが、このスキルはさらに上をいく。

 もやかかすみのような巨大な狼の頭が、真っ直ぐクレイパペットに向かっていき、大きく開いたあぎとで食らいつく。その瞬間クレイパペットはグチャっと飛び散った。


 一撃である、いやオーバーキルだ。


「レジェンドウエポンの固有スキルだしなあ。コモンモンスター相手には過剰すぎるだろ」


 やがて飛び散った泥は消えて、そこには魔石が残った。


「魔石でよかったと思う日が来るとはな」


 落ちているクレイパペットの魔石を拾う。クレイパペットの魔石はコモン星一つ。売っても百円なんだけどな。


「一応売りに回すか」


 倉庫からジッパーパックを取り出し魔石を入れた。

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