第89話 見習い
詳しい話は放課後に図書室で、と言うことで別れた。
もっと話したそうな正村だったが二時限目が始まるからな。ほらチャイムなってるぞ。
お前斧術だろう、斧術の教官ボディビルダーみたいなムッキムキのドイツ人のハーフだろ。ああ見えてオネエ疑惑があるっと、俺もいかないと、体術の教官集合かけてるし。
そして昼休みにそれは起こった。
今日のお昼はコンビニのサンドイッチ。それを平らげてパックのコーヒー牛乳を飲み干した時、教室の入り口に見慣れない女子が現れた。
胸にスケッチブックを抱えたその女子は、長めの前髪で半分顔が隠れていた。入り口近くの男子生徒に何か話しかけると、そいつは俺を指差した。
するとその女子はシャカシャカと早足で俺のところにやってきた。
うん、知らない女子だな。緑に一本線のネクタイと言うことはサポート科の二年生か。
「……鹿納……先輩……ですか」
「ああ、そうだけど」
か細い声で俺の名前を告げるが、やっぱり知らない。と言うか向こうも知らないから入り口で聞いてたんだろうな。
「わ、我、佐々木、佐々木宗幸が一子である。ち、父より素材の提供について知らせがあったであろう。我、我……」
さっきと違って突然声のボリュームが上がった。なんだこの子、ちょっとなんて言うか……
「ちょっと場所を変えようか」
周りの注目を集めているので、場所を変えようと佐々木なにがしの手をつかんで教室を出た。
俺は下り階段近くの廊下まで佐々木なにがしを引っ張ってきた。
ここは人はわりと通るが止まるものは少ないので、見られてもじっくりと見るやつはいないだろう。人気が全くない方が不安だし。
「えっと、佐々木さん?」
「わ、我のことはルナマリアと呼ぶが良い」
「……名前は」
「だ、だからルナマリア……」
「……名前は」
「ル、ルナ……」
「……名前は」
「……月子でしゅ」
あ、かんだ。
若干なりきれていない中二病臭い。そういうプレイなのか?
どうも中二病プレイをしていないと、はっきり喋らないと言うか、本来は引っ込み思案な性格の様だ。普通に話すと声が小さい。
佐々木月子はサポート科の二年生だが、すでに《加工》スキルを持っているため、結構な時間クラブというか工房に入り浸っているそうだ。
でスケッチブックというか、持っていたクロッキー帳を差し出してきた。
「我、デザインしたコート、こういうのを作りたい」
開いて見せてくれたそこには、黒のロングコートで、各所に使用目的不明なベルトがついており、裾が広がるタイプなやつね。
次のページはベストか? 袖なしなんだが襟が高くて顔の下半分が隠れる感じのやつ。次のページもどこのコスプレ衣装だと言いたくなるものが。
父親の宗幸氏は探索者向けではなく、一般向けのものを作っていると言っていたが、まさか娘はレイヤー向けのものを作っている?
「いや、俺のじゃなくて家族の冬用コート、女物を頼んでるはずだが」
そういう話じゃなかったっけ?
すると、佐々木なにがし……いや月子さんははっと我に帰り、クロッキー帳のページをめくる。
そしてそこにあったのは……
「ロリータじゃねーかよ。六十三歳の婆ちゃんにこれを着れってか!」
「あ、え? 中学三年生の女の子って……」
ひなか!
佐々木さんはまだ二年度生で授業ではあるが、スキル持ちということで部活時間が解禁されているという。で色々と作成に励んでいるだそうだ。
授業では素材を提供されるが作るものを指定されてしまう、部活では自由に作れるものの素材を購入するには限界がある。それで俺の話を聞いて、色々希望のものが作れると喜び勇んでやってきたそうだ。
うん、声が小さくて聞き取りにくい。しかも視線を合わせられない様で俯き加減の会話。
「とりあえず、今は時間がないから放課後、あー今日は正村のがあるか。日を改めて────「まつ、我待つから。その……話が終わってから、で、良いので」ああ、わかった」
最初は勢いがあるが、徐々にしりすぼみになっていく。
「放課後外の図書館で待ち合わせをしてるから、あそこの自習室を借りる予定にしてる」
「わ、わかりました」
そう言って佐々木月子はペコペコと頭を下げ、教室方に戻っていき……途中何度も振り返りその度に頭を下げる。
なんだか彼女に任せて大丈夫なのか。ちょっと不安になってきた。
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「ヒロイン候補が一人なんていつからそう勘違いしていた?」
フッ。琳太もそう思ってたんですが、なんだか増えました。
最初は月子にに素材を買い取り価格で提供する代わりに、宗幸氏が引き受けてくれるという話だったが、日曜日にひなが月子と個人的に連絡をとっていたとかいないとか……
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