第62話 面接①


 そして金曜の放課後。俺の順番は最後なので今日はフリではなく、本当に鍛錬場の端で素振りをしてみた。


 元クラスメートと逢いたくないので、いつもの草むらへ行く。

 前と違って木剣を振るうと、ビュンっと風邪を切る音がした。

 と言っても武術スキルは持っていないので、上がった身体能力による〝力任せ〟な振りでしかない。一応授業で習った殺陣のような素振りを一時間ほど行い校舎に戻った。一時間ぶっ通しで剣を降り続けることができるようになっただけでも、以前との違いがはっきりわかる。

 なんせ大坂と生狛ダンジョンで二百体は倒したからな。

 と言っても三分の一はタマが倒してるから、実質百五十に満たないのか。それでも二年度中に倒した数を一週間で超えたんだから。

 

 着替えを済ませ面談室へ向かうと、面談室の前で只野が待っていた。

 前のやつが早く終わったんだな。俺を見つけた只野が手招きをするので、足早に廊下を進み面談室に入った。


 只野がPCを操作してモニターに俺のページを映す。そしてそこから先日提出したカリキュラム申請画面を出して。モニターを三人に見える角度に向けた。


「選択科目の選び方としては問題ないが、その理由がな」


 只野が俺の個人情報画面から申請画面と時間割画面を拡大表示する。

 規定の単位をちゃんとクリアしているので、許可は出ているようだ。


 申請は授業の選択だけでなく、パーティーの申請も兼ねていた。

 パーティーメンバーの戦闘スタイルとメンバー構成も加味してのカリキュラム申請なのである。


 そして担任の只野はモニターに表示している俺の申請画面の、パーティー申請の場所をトントンとペンで叩く。


「そこにある通り、俺はパーティーは組みません。ソロでやります」


 担任の只野先生は高校教師の資格だけでなく、探索者免許も持っている。教職についてからはほぼ探索者活動をしていないので、Eランクだが。

 担任に関しては探索者免許がなくても良いので、持っている場合は上のクラスの担任に多い。なんで只野はHクラスの担任なんだろうな。


「鹿納、お前…」


 只野先生が言いかけた言葉を遮り、俺は副担の三田に話しかけた。


「三田先生はわかりますよね、俺がソロを選択する理由」


 三田は昨年度、俺たちの班の指導教官だったのだ。今年は副担任だから、うちのクラスの指導教官にはならない。

 担任副担任は指導教官としてつく場合、受け持ちクラス以外の生徒や他学年につく。


「三田先生は、俺が二年度の三学期中に倒したモンスター数ご存知ですよね」

「そ、それは」

「班の指導教官だったんですから知らないはずないですよね。俺が三学期中に倒したモンスター数は〝六体〟です」


 只野が三田を見る。


「俺が班のメンバーから嫌がらせ、いやいじめにあっていたこともご存知でしたよね。俺は何度も班替えをお願いした。でもあなたは不仲なメンバーとの関係を構築することも大事だ、と取り合ってくれなかった。これが普通の学校だったら俺も納得したかもしれません。だから我慢しました。けど三年になった途端、気の合った者とパーティーを組むことを推奨、そして途中移籍も可能。なぜならメンバー内の不和はダンジョン内での怪我や最悪死に繋がるから……あの時の貴方のセリフとは真逆の理由だと思うんですが。あ、不仲だったのは認めてたのか」


「三田先生、あなた」


 只野は眉間にシワを寄せつつ、三田の方を向いた。


「結果、俺は学年最弱でHクラス。散々転科も勧められましたが、座学の成績が良かったからギリ退学にならずにすんだってとこですか。高い授業料でしたが勉強させて貰いましたよ、三田先生。探索者は他人を簡単に信用してはいけないってね。ですから俺はこのクラスでは誰とも組む気はありません」


 俺の説明に眉間にシワを寄せた只野が、言いにくそうに告げる。


「……鹿納の言いたいことはわかった。しかし学校側としてはソロに指導教官をつけられない。一対一では個別指導扱いと取られるし人員にも余裕はないんだ」


 俺はポケットから誕生日にとった一級免許証を取り出し二人に見せた。


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