第63話 面接②


「あ、付き添い無くていいですよ、俺一級免許とりましたから。誕生日4月2日なんで。誓約書にサインしますから指導教官なしで構いません。だから〝亀〟でいいです」


〝亀〟とはライトと小型カメラと通信用インカムのついたヘルメットの事で正式名称ではなく、学生内の通称だ。

 四年度からは指導教官が付かない授業が増え、この〝亀〟を使用するのだ。

 そして五年度は基本指導教官なしなのだ。亀の映像を使った反省会というか指導授業を後日に行われる。


 只野は俺の免許証をとり、ICカードリーダーに差し込む。学校のPCは協会のものだから、免許証の情報を読み取れるのだ。

 学生証は印刷面が異なるだけで、物は免許証と同じ物だしな。


「もう、ダンジョンに行ったのか?」


 読み込んだデーターを見て只野が俺を見た。そこには先週の大坂と生狛ダンジョンの入退出が記録されている。


「学校ではレベルアップが望めませんでしたから、前学期の遅れを取り戻したかったんです。あの一件で三田先生にも処罰があったんでしょ? 申し訳ないとは思いますがそれで生徒のイジメを止めるどころか増長させるのは教師としてはどうかと思いますね。ああ、三田先生は教師じゃなくて教官でした。」


 俺は向かいに座る二人に申請項目の変更はないと再度返答した。

 指導教官というのは学生の〝戦闘指導〟を行うが、本来の役目は〝護衛〟でもある。教員資格がなくても、探索者免許を持ち、ランクがD以上であればなれるのだ。

 生徒が無茶をしないように、そして有事の際は生徒を守る。だから普段の行動に特に問題がなければ口出しをせず、終了後のミーティングで注意点、反省点などを喚起するくらいだ。

 だが三田は俺が戦闘から弾かれたことについては殆ど注意をしなかった。

 だから班のメンバーもどんどん増長していった。

 しかしこれは準免許の十七歳以下だから指導教官を必要とする。車で言えば仮免だな。

 俺は十八歳になり一級免許をとったことで、指導教官なしでも探索できる。その代わりたとえ学生であっても自己責任が発生するのだ。


 只野は免許証をICカードリーダーから抜き取り、返してきたのでそのままポケットに入れた。


「わかった。最終的な返事は週明けにする」


 あとは選択授業についての話をしたが、俺が面談室を出るまで三田は全く喋らなかった。




 その後教職員でどんな話し合いがあったかは知らないが俺の〝ソロ〟は認められた。まあ去年の卒業生にも三年次に正免許をとってソロでやっていた先輩がいたことを知ってたので、その辺りは大丈夫だと思ってた。


 あとは〝亀〟のカメラを誤魔化す方法だが、これは偶然だが手に入れたスキルが役立つことになった。


 俺の引いたスクロールは〈暗視〉だ。三田の用意した二つの〈灯り〉を避けて残った一つを選んだのだが、おかげでカメラを誤魔化せる手段を思いついたのだ。


 三年度在学中に一般に混じって免許を取る奴は、迷高専にはほとんどいない。三年度課程を無事終了すると高校卒業資格と試験なしで一級免許がもらえる。その際の探索者ランクはFランクとなるので、一般に混じって受験料を支払い、Hランクからスタートするのは何のために高倍率の迷高専に入ったのかわからないよな。


 探索者育成学校は現役及び引退探索者に指導してもらえて、実戦実習では護衛がついているうちに戦闘経験を積めて、基礎能力を上げることができる。

 少しでも優秀な探索者になって、長く活動できるように生き残る術を教えるために作られた学校。


 そう言うのがどうでもいいと思うものは十八歳になった時点で免許を取り、一般探索者になればいい。

 俺だってそんなつもりはなかったさ。二年生までは。

 優秀な探索者になるために高倍率で狭き門の学校に来たはずなのに。


 出来てからそんなに長いわけじゃないから、学校側も試行錯誤しながら運営しているんだろう。

 実際優秀な探索者を送り出しているという実績を積みつつあるし。


 俺はたまたま〝ハズレ〟を引いてしまったのかもしれない。

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