第64話 表向き二度目の生狛ダンジョン
土曜の朝、大きなバックパックを背負って生狛ダンジョンに向かう。さすがに遊園地へ行く家族連れもおり、ケーブルはそこそこ混んでいた。
入ダン手続きと武器のレンタルを済ませ、改札を潜った。
土曜日とあって他の探索者もいるので、そこかしこで戦闘音が聞こえる。しばらくは下り階段を目指して足早に進むことにした。
戦闘中の探索者の横をすり抜けるのは、マナー違反になるので迂回路のない場合、しばらく待つことになる。
「クッソ、魔石かよ」
まだ20代くらいの三人組の探索者がドロップを拾っている横を、ペコリと頭を下げすり抜ける。
角を曲がればすぐにある罠を飛び越えてしばらく進むと、近くに探索者がいないことを確認して、マイボス部屋に転移した。
「やっぱり土日は浅層に探索者が多いな」
「やっとですにゃ」
人気のないところまで一時間ほどかかってしまった。もう下り階段までちょっとのところまで来ていたのだが、階段まで行ってしまうと休憩中の探索者がいるので、その手前で転移したのだ。
荷物を整理して装備を変更する。腹袋も忘れず装着し、水や救急セットの入ったバックパックはいつでも取り出せるよう倉庫に入れてある。背負っていたバックパックはカムフラージュ用で、中はタオルなどで嵩増ししてある者だ。
「じゃあ十二階層へ行くぞ」
「はいにゃ」
タマがせっかく出てきたが、すぐ転移のためまた影に潜った。
水木の二日で十二階層の半分は到達しているはず、午前中には下り階段を見つけたい。
そう思いながら走る速度を上げる。
時々現れるモンスターを倒しながら、タマは鎧袖一触な感じで瞬殺するんだが、元々ホワイトタイガーは驚異度7で、ミラージュリカオンは驚異度5である。
たった2違いっでこんなに差があるのか?
「今は驚異度ですかにゃ? 人の決めたランクで言えば一つくらいは上がっていると思いますにゃ」
俺は俺で手に入れた《気配隠蔽》でモンスターの後ろからそっと近づき、エレホーンソードを急所に突き出す戦法で戦っていった。
スキップゴートとライズアップシープには有効だったが、ミラージュカリオンには接近前に気付かれてしまった。
「多分匂いと音ですにゃ。マスターはまだ移動に音を立ててますにゃ。それに匂いもまだ消せてませんにゃ」
《気配隠蔽》レベルが上がればそういうのも消せるようになるのか。カリオンは犬科だけあって匂いに敏感なのだろう。
十一時を少しすぎた頃、ようやく下り階段を発見した。
「休憩に戻ろう」
「わかりましたにゃ」
ちょっと早いがお昼にしよう。昨日のジンギスカンの残りを野菜炒めみたいにしてタッパに詰めてある。これとおにぎりで昼食にする。
タマには玉ねぎを抜いてあるんだが、猫というわけじゃないので抜く必要はなかったそうだ。
「地上の物は食べてもエネルギーになりませんにゃ」
それってダイエットに最適じゃ……いや、モンスターにダイエットはいらんか。
「あれ? じゃあモンスターって探索者を食べるよね、あれって栄養になってないんじゃあ」
「ダンジョン内にいる人間は魔素を吸収してますから、十分エネルギーになりますにゃ」
あ、そうなのね。ていうか食事時の会話内容じゃないよな。
「さあ十三階層だ」
「マスター、今日は五階層のボスを再戦するって言ってませんでしたかにゃ」
「あ」
今回の戦闘で武器をドロップしたことするために、挑戦する予定だったんだ。
「えっと、じゃあ六階層に行って中ボスリポップしてるか確かめるかな」
五階層の階段では休憩を取る探索者が多いからな。
気配を消して六階層へ転移する。よかった誰もいない。
というか階段を登った先の扉が閉まっていたのでボスがリポップしていることがわかった。一応マップで反対側の確認もするが、探索者はいないようだ。
向こうに探索者がいた場合、逆からボス部屋に入ると怪しさ満開だからな。
中ボスがいないからと不用意に先に進むと、帰りにリポップしてて戻れなくなる探索者もいるのだ。
その場合中ボスを倒せる戦力があればいいが、なければ大変なことになる。帰れないのだ。
協会はボス不在中に安易に先へ進まないよう喚起しているが、毎年何組かは戻れずにいるケースが発生している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます