第34話 残り物

「まずは1番杉野からだ」

「はい」


 スクロールを引くのは成績順。何が〝運〟だ。よく言うぜ。

 スキルがレベルアップして《アイテム鑑定Ⅲ》になったことで、触れなくとも鑑定できるようになったのだ。

 三田が用意したスクロールを鑑定すると、有益なスクロールは最初に教壇の上に置いた二つの箱の中に多く、下の箱にはロクなものが入っていない。

 あたりの数が操作されたくじ引きじゃねーか。


 Gクラスの二十人が引いたところで、三田が残りの箱の中身を投入し混ぜる。


『スクロールの数が多いですにゃ』


 陰に潜んでいるタマが念話で語りかけてきた。

 二クラス四十一名。Gクラス二十名が引き終わって、Hクラスが二十一名だがスクロールは残り二十一本あればいいのだが、下の箱に二本残っている。


『うーん、下の箱の中に二本ほど残ってるんだが、運を使って選ぶっていうコンセプトだから、最後の俺にも選択肢があるってしたいんだろうけど』


 みんなが順にスクロールを引いていき、そして最後の俺の番、選ぼうにもスクロールは一本しかない。あの二本はなんだったのか。


「あ、すまんすまん、下の箱に残っていてたな」


 そう言いながらスクロールを二つ取り出し、箱の中身に入れる。

 気付かないはずがない。どうも最初から仕込んでいたようだ。


 なんせ今入れたスクロールは二つが《灯り》で、すでに俺が持っているスキルだ。

 呆れてものが言えない。俺は最初から箱に残っていた《暗視》のスクロールをとった。

 この残りは仕込んだわけじゃなくって偶然なんだろうけど、それって俺の運が悪いってことなのか?


「鹿納、それでいいのか?」

「残り物には福があるって言うからな」


 俺はお前の茶番に乗ってやらん。


「お前たちにとって初めてのスキルだ、まあ一人違うのもいるが。開けてみろ」

 三田の言葉に一斉にスクロールをほどき、教室の中に光の粒子が舞い踊る。

 あちこちから悲喜様々な怒声が踊る。


「やった! ファイヤーアローだ」


 そう叫んだのはクラストップの杉野。


「俺ストーンブリッド!」

「畜生! 聴力強化かよ」

「俺、罠察知、やり~」


 そんな喧騒の中、前橋が俺の方へとわざわざやって来た。


「お前何だった? 俺は~、サンダーボールだぜ」


 初級攻撃魔法スキルと言われている中でも、サンダーボールの有用性は一つ抜きん出ている。それは副次効果で若干のスタンが発生するからだ。

 優越感の滲んだ笑みを俺に向ける。


「……暗視だ」

「はっ、暗視か、よかったじゃねえか。結構有用スキルだぜ。《灯り》とは相性最悪だけどな!」


 その言葉にクラスの中の数人が笑う。三田も笑っていた。

 しかし間違いではない。《暗視》があれば《灯り》は必要ない。《灯り》を使えば《暗視》は役に立たない。

 どちらかは死にスキルだ。

 持てるスキルには限度がある。

 この最初のスキルは求めるものではなくランダムで与えることで、今後どのようなスキル構成を立てるかという、試験でもある。そしてこの二つをとることは最悪の構成なのだ。


 嵌められたのだろう。まさか教師にここまでされるとは。

 結局どれをとっても俺にはマイナス。


 まあ、俺には『スキルのONOFF機能』があるので、全く問題ないがな。 


「遅くなりました。ちょっと手間取って。もう配布は終わったんですね、それじゃあ……」


 Gクラス副担任の佐山が戻ってきた。端末から今取得したスキルの報告の入力の仕方を説明を始めた。

 その横で三田が残ったスクロールと箱を片付け始める。振り向く瞬間、俺の方をみて口元を歪めた。

 せっかく《灯り》二つ用意したのが無駄になったが、《暗視》だったことが溜飲を下げたってとこか?

 あーもー、なんだかなあ。


『でもマスター。《暗視》はレアでサンダーボールはコモンですにゃ。マスターの方がいいスキルですにゃ』



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