第6話 実践授業と進級

 

 二年度の実戦授業という名の戦闘実習では、〝スキルに頼らない素の戦闘力を養う〟という名目もあり、学校側から二年度でのスキル習得は禁止されている。


 スクロール開封禁止には別の理由もある。未鑑定のスクロールはどんな《スキル》かわからないからだ。


 取得できるスキル数は無制限ではない。強くなることでその上限は増加することはわかってはいるが、むやみやたらに取ればいいというものではない。

 スキルによっては互いに効果を打ち消したり、弱体化させてしまう組み合わせもあるからだ。


 三年度の最初のスキル構成の授業でスクロールの配布がある。それまでは勝手にスキルを取得してはならないと校則で決められているのだ。


 学校から与えられるスクロールは生徒には内容を教えず、くじ引きのように引かせる。

 もっともらしく「自分の欲しいスキルでなくとも、それを活用できるようになるため」とか理由をつけているが、本当はそんなことじゃないってことは皆、わかってるけどな。

 三年度は二年度の進級試験の成績順でクラス分けがされる。

 最下位のHクラスにはほぼ【コモン】しか回ってこない。

 



 俺の〈ライト〉は【コモン】の中でも、実質下から2番めの☆☆星2

 星1。は【コモン】の中でも実質使えない〝ゴミ〟と呼ばれるドロップ品。

 ゴミの【コモン】ということで【GC】と呼ばれている。これはJDDSで正式採用されていない、日本人探索者のスラングである。

 【コモン】の魔法スキルは呪文単体だ。【レア】以上の魔法スキルは属性なので、数種類の呪文を使用できる。


 学校側が配布するスクロールで確実に【レア】が引けるのは、成績優秀のA、Bクラスだけ。

 Cクラス以下は下に行くほど【レア】の割合が下がっていく。


 Hクラスでは【レア】が一つでもあればお慰みだ。


 ちなみにスキル名は開いた人間の使用する言語におきかえられる。日本語なら〈怪我治療〉なのだが何故か英語の〈キュアウーンズ〉で言う奴が多い。

 大事なのは発音ではなく、その言葉に込められた〝意味〟なのだ。

 日本人は厨二病を患ったやつが多いのかもしれないとどこかのコメンテーターが言っていた。


 唱える時〈キュアウーンズ〉や〈キュアディシーズ〉の方が〈怪我治療〉〈病気治療〉よりかっこいいよな。

 俺も〈あかり〉でなく〈ライト〉って言ってるし……


 そう、俺は〈ライト〉のスキルを持っている。 

 今は春休みで三年度の授業は始まっていないことから、正式取得したスキルじゃない。

 望んで得ただわけでもない、アクシデントで取得したスキル。


 二年度では禁止されているはずのスキルの習得。


 俺の学校生活が歪み出した原因のスキル。


 このスキルのせいで、俺の未来が狂い出した。クラスメイトから嫌がらせを受け、進級が危ぶまれる程に。





「何やってんだよ、大和動くな」

「そうだ、お前が動くと光がブレるだろ」

「そこでジッとしてろ」


「だけど、俺も……」

「後だ、とりあえずこいつら減らしてからだよ」


班の面々から罵声が飛んでくる。俺一人戦闘に参加できず、ただ突っ立っているだけ。

ちらりと先生の方を見るが、知らんとばかりに顔をそらす。


三学期に入ってからずっとこんな状態が続き、班の中で俺だけが取り残され、ほかのみんなは力を上げていく。


半年前まではこんなことなかったのに。

俺は悔しくて拳を握りしめる。


「おい!何やってんだ、灯り係」

「光量落ちてきてるぞ」

「とっととやることやれよ!」

「っとに使えねえな」


「……〈ライト〉」


バレーボールサイズの光球が俺の頭上1メートルの位置に出現し、光源のない周囲を照らし出した。


「お前たち、鹿納もちゃんと戦闘に参加させろ」


 一応言っておくというおざなりな感じで、戦闘終了後に教師から指導が入る。

 

「えー、だって大和弱いし」

「時間かかるんだよなぁ」

「灯り係が動くと視界が悪くなるし」

「そうそう、せっかく手に入れたスキルなんだから使わねーと」


 俺が動こうとすると、はんの全員から怒声が飛ぶ。

 結局戦闘に参加できずに終わる。


「鹿納、お前も遠距離攻撃くらいできるだろう」


 教師はわかっていて言っている。

 俺の攻撃の射線は前衛どころか中衛にまで塞がれている。通常後衛の攻撃ルートを考えた位置どりをするべきなのだが。


 いっそフレンドリーファイヤでもかましてやろうか、なんて思ったこともあるが、それだと俺の成績がさらに下がるだけだ。


 実践授業で俺は〝灯り係〟と揶揄され、メンバーからハブられ、ろくに戦闘に参加することもできず、二年度三学期が終わりを迎えた。




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